2-フタバ
今日は変な日だった。
ベッドに転がってそんなことを考える。
まず、ノックもせずに誰かが入ってきた。すぐに施設の大人だとわかったけど、初めての事だったのでびっくりしてしまった。
そして、僕が何の用か訊ねたら「音楽でも聴いたら?」と言うのだ。意味がわからないまま、僕はヘッドホンを付けた。そのまま再生ボタンを押して、好みから外れた重低音と大好きなメロディの混じった音に耳を傾けた。なんとなく、音量を高くする。周りの音が聞こえないくらいで丁度いい。
視界はない。耳は音楽のみ。リラックスすれば、触覚は解けてなくなる。外界と自分を切り離すのだ。
と、思っていたのだが椅子に座っていたら足が机に引っかかった。仕方ないので椅子を回して横を向いた。
ぐだっとリラックスし切っていたのだが、不意に本が読みたくなった。立ち上がって本棚のある方向に近づいた。読みかけの夏目漱石の小説が置いてあるはずだ。もちろん点字だが。
いつもはCDと同じように迷いなく取り出せた。背表紙を撫でて確認することもなかった。しかし、今日は抜き出した時にずっしりと強い重さを感じた。ベッドに座ってページをめくると、ツルツルしていた。
「あ、間違えた」
思わずそう口に出した。時々こうして間違えることもあったので、特に気にしなかった。妙に触り心地が気に入ったので、しばらくページをめくったり撫でたりしていた。
その後は特に何をした記憶もない。半分寝ているような心地で、音楽をずっと聴いていた。途中、いつの間にかヘッドホンが手の上に移動していたこともあったが、よくある事なので特に気にしなかった。
だが、変だったのはそれだけではない。
音楽を聴いたらと言われた後くらいから、しばらくの間、誰かが部屋にいる気配がした。少々声を張って、誰かいるのかと口に出しても返事はなかった。気のせいだと思って、音楽に没入して忘れることにした。
ずーっとヘッドホンに集中した後は、本を読みたかったのを思い出して本棚から例の本を抜いてきた。今度は間違えず、ちゃんと読み半端の小説だった。
最近、なんか変だ。よくそう思う。
しかし、よくそう思うということは最近でもない。常になんか変だったのだ。なら、気にしなくてもいいかと思っているうちに僕は夢の中に行っていた。
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