第2話 いざ神国へ

キンコーンカンコーン


 予鈴のベルが鳴り、俺は席に着いた。2年B組窓側一番最後尾、そして若干だが女子たちから距離を置かれて配置されている机と椅子。それが田中晴臣、こと俺の席である。めっちゃ避けられてるな……という悲しい気持ちはこの際考えない。



(それにしても……月曜は眠いなぁ)


 日曜に異世界に行き、週1とはいえ剣を使っているせいか、月曜日は非常に眠い。だが、若干だが筋肉量が増した気がするし、体力もついた。なんせ3階にあがっても息が切れない。ただいかんせん、体重が減らない。すべては異世界の姫、リスティが振舞う肉料理のせいではないかと思うのだが、王家の姫直々の接待を断る程、俺の心臓は強くない。


 しばらくして、朝の担任の先生が教室に入ってきた。先生がなにやら言っていたが、俺は眠気のせいか耳に届くことはなく、窓から見える空をボーと眺めていた。


「え~~! また??」

「先生! 本当なんですか?」



(なんだ?? どうしたんだ?)


 やけに周囲がざわついている。



「転校生だって!」

「また? 前は男子が入ってくるっていうからさぁ、すっごく期待したのに人類かよっと思うぐらいのデブがはいってくるし~」

「あんたって相変わらず正直にひどいわね。でも今回は女の子らしいよ」

「なぁ~んだ。じゃあ、どうでもいいわ」

「あなた達! 静かにしなさい」

 


 先生が騒がしい女子たちに注意すると周囲はしんとなる。


(転校生か……憂鬱だ)


 だいたい、転校生が入ったばかりのクラスになんでまた生徒が入るのか。

 しかも女子だ。女子が増えるという事は、俺にとってはアイデンティティを傷つける存在が増える事と同じ。卑屈だなっとヴィオルの奴なら言うだろうが、過去俺歴史によると、同年代の女子で俺とまともに話す奴はリスティと魔王しかいない。話すことがあるとしたら、先生からの言づけ程度だ。それもかなり嫌々、顔を見ないよう、息すら一緒に吸いたくないのか抑えつつ会話される。



 つまり、現実世界に俺とまともに話す女子は存在しない。卑屈にもなりたくなる。



「それでは、転校生、皆さんに自己紹介をお願いしますね」

「はい先生。俺……あたしは田中真央です。留学ということでこの学校に転校してきました。至らぬ点が多いと思いますがよろしくお願いします」


 なんだろう。声に既視感が。


 なるべく転校生の女子と目線を合わさないよう自分の机を見ていたが、思わず視線がそっちへといってしまった。


「まっ」


 慌ててその先に続く言葉がでないよう口元を抑えた。

 

 (魔王がなぜ?? )


 魔王は魔族とばれないよう、とがった耳や肌の色を人のように変化はさせているが、銀髪に赤い瞳はそのままなので違和感が半端ない。当然のごとく周囲の生徒達が「ファンタジー小説にでてくる子みたい」とざわめき立っている。


 何しに来たんだ! と声に出さず口だけ動かしたら、魔王は顔を真っ赤にしてプイっと顔を逸らした。やばい、何か怒らせたか? だが、汗は毎週与えてるし、最近ではしぶしぶではあるが、礼も言ってくれる。やっと話せるようになったと思っていたが、己惚れだったらしい。


「あら、田中君と田中さんはお知り合いなのかしら」


 俺が声をあげたせいで、先生が魔王と俺が知り合いだと思ったらしい。周囲の女子が「え……こんな可愛い子と?」「あのデブが?」とヒソヒソと話しては俺を疑いの眼差しで見ている。


「あ……親戚で」


 

 親戚というにはあまりにもかけ離れた外見だが魔王が変な事をしでかさないか心配だ。適当な理由をつけてでも傍にいたほうがいいだろう──と思ったのだが、周囲は納得いかないらしい。遺伝子的にあり得ないとか、全部聞こえてるからな、お前ら。


「あら、それで苗字が同じなのね。なら席は田中君の隣でいいかしら?」

「あぁ……ええ、いいわ」

 

 魔王は素直に先生の指示に従うと、俺の隣の席に行儀よく座る。以前はパンツが見えそうな角度で股を広げ、行儀悪く座っていたのだが、リスティに何度も注意され最近では女の子らしい仕草も見せるようになった。ヴィオルの奴がその度にニヤリと笑っては「愛の力だね」と言い、俺を見るから困る。どう考えたって、魔王がリスティに構ってもらいたいがための行動だと思うのだが。


「よろしく、晴臣」


 魔王が優しく微笑みながら俺に言う。というかお前は誰だ。そんな表情、見たことないぞ。



 その後、魔王は淫魔ならではのお得意の能力なのか、放課後には周囲の生徒を男女関係なく魅了させていた。


「真央ちゃんってなんかいい匂いがする」

「ふふ、なら好きなだけ嗅いでもいいよ。そのかわり……かな?」

「やぁん~~♡ 真央ちゃんったらえっちぃ~」


 おーい。まさか食べるつもりじゃないだろな。何を耳打ちしたんだ。


「ま、真央さん、俺も……その」

「男はダメ。でも下僕にならしてあげてもいいけど」

「喜んで!!」


 おーい、クラス3人少数男子、お前は下僕で本当にいいのか? そいつは人使いが荒いぞ。あと元、男だぞ。


 問題行動だけはさせないようにと、隣の席という事もあって監視をしているのだが、だんだんと心配になってきた。しかも周囲の生徒にかこまれながら、魔王の隣にボッチ状態で座るというのは中々に苦しい。


 あまりにも苦しくて、教室を飛び出すと、魔王が追いかけて来て、俺の肩をつかんできた。


「なんだよ。帰るなら帰るって言えよ!」

「お前こそ──どうしてこっちに来たんだ?」


 周囲に誰もいない事を確認してから俺は聞く。


「どうしてだって?」


 魔王がムスっとした顔をした。


「お前、もう忘れたのか? お前と俺様が傍にいるのは当然の事。これでもヴィオルの奴が、ニホンという国は18まで婚姻を禁止されているって言うから、子作りを我ま──むぐぅっ。なにするんだ!」


 何するんだ! はこっちのセリフだ。慌ててもう一度、周囲を見渡したが廊下は誰もいなくてほっとする。良かった、聞かれてなくて。


「お前と俺がいつそういう関係になったんだ」

「いつだと? 俺様の身体に汚らしいものをぶっかけたのはお前だろ? おかげで俺様の身体はお前なしでは生きられなくなったんだぞ。わかるか? 臭くて汚いアレを毎日欲しくなる──

「わぁぁぁぁぁ、やめろ。その誤解を招くような発言、誰かに聞かれたらどうするんだ」

「どうするって、被害者は俺様だろう? ねぇ、先生」



 へ……センセイ?


「田中君、職員室まで来てくれるかしら?」



 振り向くと、担任の先生が下種でもみるかのような目で俺を見ていた。




■■■



「──という事があってだな」

「それはまた大変ダッタネ~」


 ヴィオルが書類に印鑑を押しながら、軽いのりで返してくる。こいつはあれだ、ほとんど話を真剣に聞いてない。


「だったねぇ! じゃねぇ。あの後の俺の神的な弁明がなければ、警察に連行されるところだったんだぞ。お前だろう? 魔王を俺の世界につれてきたの。あいつ、すっかり学校が気に入って、今じゃ俺の家にまで居座ってるんだぞ。親まですっかり手名付けちまってるし、何とかしろよ!」

「アハハハ~、もう親公認か。にしても良く弁明できたね。さすが晴臣だよ」

「あぁ、苦いアレは青汁の罰ゲームという話だったにすり替えて誤魔化し──じゃねぇ! 話をそらすなよ!」

「バレたか。う~ん、まぁ色々と事情があってね。君の傍に魔王を置くことにしたんだ」

「事情で魔王を一般人の傍におくなよ」

「一般人じゃないだろう。君は騎士王だ」


 ヴィオルが印鑑を押す手を止め、真剣な顔で俺を見て言う。


「騎士王っていっても(仮)ならぬ(汗)みたいなやつじゃないか」

「それ面白いね。晴臣は自虐ネタの天才だよ」


 自虐したくてしてるんじゃね~~と言い返そうとしたら、ヴィオルが突然、俺の顔に封筒のようなものを押し付けてきた。


「ふがっ、な、なんだよこれ?」

「封筒だよ」


 いや、それは見ればわかる。


「俺はこの御大層な包みの中身を聞いているんだ」

「あぁ、神国からの招待状だよ。晴臣が魔王を倒した事にお礼を言いたいらしい

。ちなみに拒否権はないからね」


  にこにこしながらヴィオルが言う。こいつがこういう顔をするときは碌な思い出がないのから、なんだか不安だ。


 それにしてもシンコク?? なんだが中国みたいな名前の国だな。一応魔王を倒したことにはなっているから、周辺諸国あたりが、パラリア国と仲良くしておき有事には騎士王の力を借りようという魂胆だろう。魔王がおとなしくなったとはいえ、魔族も一枚岩ではない。やつらの襲撃による被害が、いまだに各地に報告されている。しかもパラリアは小国で歴史も浅い。有能なリスティと無敵のヴィオルがいるおかげでなんとか周辺諸国からの侵略を防いでいる状態だ。


「……で、いつ行くんだよ」


 気は進まないが、はったりでも俺が行かないといけないだろう。上手く誤魔化せるよう色々と対策を考えておかなくては。


「あ~、それね、今から」

「………は?」

「というわけで、一緒にまいりましょう? ハルオミ様」


 突如、俺の横にリスティが現れた。相変わらずの良いにおい……じゃない! 転移魔法でいきなり俺の近くに来るのはやめてほしい。ヴィオルと話す前は剣の鍛錬をしていたから汗だくだ。臭いと思われたくない。


「ハルオミ様? 何故、距離をあけるのですか?……もしや、私の匂いが不快ですか? 土曜の夜には……その……いつもとは違うハーブをいれた湯につかってましたから。お嫌いなのであれば今度は違うものを!」

「い、良い匂いだよ! リスティは……あ、いや……その」


 やばい。俺の発言がキモイ。


「本当ですか? ……嬉しい」


 リスティが恥ずかしそうに頬を赤く染めながら俯き加減に言う。


 可愛い。本当に可愛い。こんな俺に良いにおいとか言われて、自然に嬉しいなんて言ってくれる天使が存在していいのだろうか。だが、己惚れてはいけない。彼女が頬を赤く染めるのも、嬉しいというのも、すべては騎士王アグゥ~に俺が似ているからだ。俺の存在価値と言えば、はっきりいってそれしかない。


「姫、晴臣と二人の世界を作るのは後にして、さっさと神国へと参りましょう。神々のご機嫌を損なうのはパラリアにとって良い事ではありません」


 ヴィオルが真面目な顔でいう。


 え……神々? シンコクって……。


(神国~~~~~!!!)






 

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豚ですが週1で異世界騎士をしております 七海 夕梨 @piakiri

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