地下大金庫大金消失

@stdnt

第1話

その銀行は、複製しにくいセキュリティを地下大金庫に備えていた。

通常の鍵は複製しやすいものである。型を取ってしまえばよいからだ。

しかし、悲劇はおこってしまった。


定例チェックで係員たちが大金庫にやってきた。

まずは施錠されていることを確かめる。

次に、大金庫の鍵に“はめ込み”をして中に入ると、

中にあるはずの大金がなくなっていることに気が付いた。

そして鍵は、扉の内側“から”固定されていたのだ。

報告に蒼くなった支配人は、警察を呼んだ。


特殊なセキュリティのため、複製された鍵は一切ないことが確認されている。

扉に固定されていた鍵は、マスターキーだった。

扉はオートロックでもない。

大金庫は完全な密室のように見えた。

密室からの大金の消失である。


だが、そのトリックはすぐに暴かれた。

上記までの文章を正確に想像してほしい。

以下は解答編。


その銀行の大金庫の鍵は、扉の内側“から”固定されて、

扉の外側に突き出しているという形式のものだ。

大金庫に入るには、その鍵に合致する受け口(穴・シリンダー)をはめ込み、

受け口ごとノブのようにまわす。

穴が合致しない場合、空回りしてしまい、扉は開かない。

鍵を強引に回そうとすると鍵は折れてしまう構造だ。


鍵の複製は容易である。

しかし、受け口の複製は容易ではない。

これがこのセキュリティの利点だったのだ。


犯人はいうまでもない、このセキュリティの開発者だった。

容易ではない受け口の複製といった利点が、開発者には裏目に出たのだった。

だが、警察が気が付いたとき、彼の姿はもうなかった。

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