#6 しゃっきん

「博士さん...、どうして私を陥れようと?」


そう問いただすと、下唇を噛み、拳を震わせた。


「全てあなたへの...、恨みですよ」


「恨み...?」


「雇用契約じゃ月8万円で自分の助手をやってもらうということになってますが、3ヶ月分約24万円が未払いなんですよ!!そしてあなたには借金もある!助手は借金返済の為に、服まで脱いだ挙句、精神疾患を...!」


「そんなまさか...!」


「あなたを許すわけにはいかないのです。

…あなたが借金を帳消し出来るのであれば、

この被害届は取り下げましょう」



「...という訳でキュルル。アードさん

よろしく頼むよ」


「何でだよぉおおおおおっ!?」


「何しれっと私まで巻き込まれるんですか?

いい加減にしてください」


「サーバルとカラカルは面倒見るからさ」


「1度きりのゲスト出演だと思ってたのに。

自分の尻は自分で拭いてくださいよ、かばんさん。前作主人公だからって都合の良い事貫き通せると思ったら大間違いですよ」


「...」


(つか、これ赤ちゃんメインの話なのに赤ちゃん全然活躍してねーじゃん...)


キュルルは心中でそう思った。


「でも、かばんさん。どうやって借金を帳消しにするんです?地下に巨大なカジノでもあるんですか?それとも鉄骨渡りか労働でも?」


キュルルの問にかばんは人差し指を立て横に振った。


「そんなカ◯ジみたいな事はやらないよ。

私みたいに借金してる人は他にもいるんだよ」


「まさか、借金取りのフリして債務者からお金を巻き上げようって魂胆ですか?」


「そうだよ」


「ただのクズじゃねーかっ!!」


「キュルル、母っていうのは時に鬼にならなきゃダメなんだよ」


「言葉の意味履き違えてるよっ!!」


「まあ落ち着いて。私には暫定パークガイドの権限がある。そして、ラッキービーストも使える」


彼女は自身の鞄から紙を取り出した。


「これが債務者のリスト。今からここに行く」


「え、でも、お金がないからお金借りてるんですよ?行ったところで何も...」


「私にはコネがあるから、そこら辺は心配しないで。やっぱり持つべきものは友だね」


(いやー...、絶対にこんな本性のヤツとは友達になりたくねえんだけど...)


「博士さん、1週間だけ待ってください。

そのうちに借金と未納分のお給料をお支払します」


「では、誓約書にサインを」


差し出された紙にサインを描いた。


「プリウスはぶっ壊れてるからバスで行くよ」


「あのー...、今から入れる保険ってありますか...?」


ぐっすり寝ているサーバルとカラカルと共に、債務者の元へと向かった。



「あぁ...。腹が減った...」


「ここ1週間砂と水しか食べてないわ...」


「ちょ、だからってそんな目で見てくるなよ...」


「鳥がいるわ...、美味しそうね...」


「おいチーター。正気になれ。

ロードランナーは美味そうだが食べるもんじゃないぞ」


「おいおい、食べる前提かよ...」


(ッチ、何だよ...。資本主義って...。

知らないよ...。お金ないフレンズはじゃぱりまんすら食べれないって虐待じゃねえか...。

お金は借りたものの、返さなきゃいけないなんて知らなかったし...)


この三馬鹿は、そういう理由で借金をしてしまい、滞納していたのだ。




「ん...、あれは人影か!?」


「もしや...!何か貰えるかも!」


空腹で我慢ならない2人は急いでそっちに向かった。


「あ、待ってくださいよ!」





「すみません、こちらにプロングホーンという方がいらっしゃるみたいなんですけど」


「ああ、私だが?」


「あなたでしたか!良かった。まずはこれを」


ビニール袋に入ったじゃぱりまんを差し出した。


「うおおおおっ!!!飯だ!!!」

「やったわ!!!」


プロングとチーターは大喜びした。


「うわっ、マジで貰えたんすか!オレにも...」


ロードランナーが来た時には既に2人は食べていた。


「ん?ごめん、4個しかなかったから2個ずつ食っちまった」


頬張りながらプロングは言った。


「嘘だああああああああっーーーー!?」


絶叫。


(オーバーリアクション過ぎ...)

かばんの後ろにいたキュルルは顔をしかめた。


「このバカ共!!もう1人居る事に気付け!」


「あ、これあげるわ」


チーターが手渡したのは


「乾燥剤じゃねーかよ!!!ふざけんな!!」


「喜んでくれて良かったです」


かばんは明るくそう言った。


「喜んでねえよ!!周り見ろ周りを!!」


あまりにもロードランナーが五月蝿かったので


「あの、これ...」


キュルルは持っていたチョココロネを差し上げた。


「マジで...!?ありがてぇ!!マジありがてぇよ!!」


涙を流しながら、パンにかぶりついた。


「ちょっと石みてえに硬いけど...!美味いよ!」


こんな嬉しそうにしているのに、すぐに地獄が訪れるとは。そう思うとキュルルは申し訳ないと思った。


「皆さん、私が何故来たか、わかりますか?」


「食い物の差し入れじゃねーのか?」


「...あっ」


チーターが察し付いた事に気付くと、

かばんは急に声色を変えた。


「借りた金返せよ。飯やったんだから」


「えええぇっ!?お前らグルかよ!!」


「うるさいよ、ランナー」


かばんは鋭い視線を向けた。


ランナーだよっ!!」


「頼む、ま、まだ待ってくれ...」


プロングは頭を下げた。


「待てないねぇ...」


「お、お願い...!何でもするから...」


チーターも彼女の横で頭を下げた。


「ん?今なんでもするって言ったよね」


「はい...」


「じゃあお金を稼いでもらおうか。仕事してね」


「し、仕事...?」


プロングは顔を上げた。


「30分で、5万!簡単なビデオ撮って演技するだけ!パパパッってやって終わり!3人でやればめっちゃ稼げるよ」


「え...、3人ってオレも含まれてんの!?」


「そうだよ、ランナー」


「だから平安京じゃねぇよ!ロードだよロード!」


「えっ、撮影したら借金チャラにしてくれるんですか?」


「何食いついてるんだよ!プロングホーン様!」


「当たり前でしょ?」


(ええ...、何か嫌な予感しかしない...)



3人をスタジオまで連れていき、簡単な説明をした。


「で...、3人はとある大学の陸上部って事で。

大先輩役がプロング、先輩がロートランナー、

後輩がチーターって感じで。まあ、やりながらやった方がわかるでしょ」


「いや、監督...。“ロード”です。それなら製薬会社になってしまいます...」


「かばんさん!まずいですよ!これ完全にアレじゃないですか!!服の脱ぎ方まで指導して、アレですよね!?」


「金を返せねえ奴には相応の仕事だろ?」


「違う!!こんなんかばんさんじゃない!!

語尾も違うし!!!」


「はーい、じゃあ行くよー。シーンワン、アクション!」


キュルルの制止を無視し強行に撮影を開始した。



「先輩、夜中腹減らないですか?」


「腹減ったなあ」


「ですよねぇ。この辺にぃ、美味いラーメンの屋台来てるらしいですよ。行きませんか?」


「行きてぇなあ」


「行きましょうよ!じゃあ夜行きましょうね」


「あっ、そうだ。おい、チーター」


「何...?」


「さっき私達が着替えてる時、チラチラ見てただろ」


「見てないわよ...」


「嘘つけ絶対見てたぞ」


「何で見る必要なんかあるの?」


「お前さぁ、さっきオレらがヌッ、脱ぎ終わった時さ、中々風呂来なかったよなぁ?」


「そうだよ」


「いや、そんな事...」


「見たけりゃみ、見せてやるよ」




「ちょっとかばんさん!こんな事やめましょうよ!!助手さんのような精神疾患患者を量産するだけです!」


キュルルがかばんの腕を引っ張る。


「金を返せねえ奴に人権はないんだよ」


「やっぱりオメーかばんじゃねえだろ!!

悪魔だろ!!」


「邪魔だ!」


ゴッ!!


「自由を奪った状態で殴るなんて!!!」




それから、キュルルの抗議むなしく、撮影は続けられ...。小一時間後に終了した。


「はい、オッケー!ランナーのあれは編集で何とかしておくよ」


「ハァ...、な、なんだよ...。オレはゲロ吐きじゃねーよ!ロードだよ...。何回言えば覚えんだ...」


「このかけっこは疲れるんだな...」


「初めてよ...、こんなのぉ...」


2人はかヘトヘトに息を乱していた。


「言わんこっちゃない...!!

R18になるかならないかの表現じゃないですか!!」


「元からけもフレ《こっち》の原作もR18要素多いのに全年齢対象だからセーフだって」


「そういう事じゃねえだろ!!もういい加減やめましょう!」


すると、かばんは首を横に振った。


「いいや。さっきの見て思ったけど、意外とイケるから、もう1作作ればもっとお金が手に入る」


「皆さん...、とうとう落ちる所まで落ちましたよ。この下衆女...。僕は家無いけど家に帰りたいです...」


「あっ、一ついい考えを思い付きました!

少し待っててください」


バスの方に走って行った。

しばらくすると、両腕に抱えてきたのは、

赤ん坊のサーバルと、カラカルだった。


「ま、まさか...」


「子育てモノなんて今までに無かったんじゃない?」


「完全に業者になってるーーーーッ!!!」



「ほら、3人とも。ラウンド2だよ」



「あぁうぅぅう~...」


「うぁ~、うう~」


サーバルたちはそんな風に声を出した。


「はぁー...、はぁー...」


「あぁっ....あぁ...」


「マジかよ...」


3人は屍の様に力無く伸びきっていた。



「想像以上に激しかったねぇ...。これは最高だね」


「もう...、僕、色々と幻滅しました...」


「もうすぐバイヤーが来るんだけど...」


すると、ローブを被った人物が現れた。


「まいど。ゲイマー山下です」


「誰!?」


「あ、来てくれましたね。これがブツです」


「確かに...。じゃあこれ、報酬の700万です」


「ありがとうございます」


「またお願いしますよ...。グヘヘヘ...」


ビデオを受け取ると直ぐに走り去ってしまった。


「これで一件落着だね、キュルル」


「何がだ!!!1件も落ち着いてないよ!!」



「博士さん。約束の未納分の給料です」


札束を置いた。


「ありがとうございます。

助手も最近、いつもの調子を取り戻してるみたいで、良かったですよ。なんでも、最近迫真の演技をしている鳥がいるとかなんとか...。

まあ、お金も貰えたので、あなたと私達のわだかまりは無かったことに」


「もちろんです」


「因みに、これからどうするのです」


「パン屋をぶっ潰しに行きます」


「なるほど。あそこは景観を損ねているので、潰すことには賛成です。ならば仲間を増やした方がいいでしょう。この先のライブ会場とかいいいんじゃないですか」


「そうですね」


こうして、博士と和解したかばんは、

サーバルとカラカルを元に戻す為にキュルルと共にパン工場に乗り込むのであった...。


←To be continue=




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