-78度 勇者のスエオ2

「あんまり大きな声じゃ言えないんだどもな?

 今までの勇者は大半が『強きをくじき、弱きを助ける!』とか『悪徳貴族成敗でちいれむうはうは!』とか言ってるらしくてのう……」


 つまり、お偉いさまからはあまり歓迎されていないようである。

 しかし本当に魔王が復活しているのであれば、勇者の手助けをしないと人類が滅ぶ危険すらある現状で、表立って邪魔したり排除したりするような貴族はいないのだろう。

 スエオはふと嫌な予感を感じながらも、宿屋が無理ならと野宿できそうなスペースを教えてもらい、そこで野営をする事にした。


「この辺りならいいんだべか?早めにテントと晩飯の準備するべ。」


 オトワールと手分けをして野営の準備を進める。

 町を囲う柵のそば、しかし門からは離れた町の外れの空き地が今晩の寝床になりそうだ。

 外れの空き地とは言え、かまどに出来そうな石も無ければ薪も落ちてはいない。

 まあスエオの野営としては今更である。

 土魔法で盛り上げて作ったかまどは普通の台であり、違いと言えば天板の所に円環状に並べて小石を入れるような窪みがあるだけだ。


 もう随分前、スエオが草に【右手に封じられし世界を飲み込む混沌】を付与した事を覚えている人はいるだろうか。

 同じように、小石に弱く付与して窪みに並べ、ガスコンロのような形にして使うスエオ。

 草に直接付与し、遺跡を作り出した過去があるスエオは学習していたのだ。

 具体的には-6度ぐらいの話である。


 目立つぞと師匠に注意された結果、再封印して付与を引っぺがす事を覚えたスエオに死角はなかった。

 ちなみに全部スエオの妄想でしかない事は気にしてはいけない。

 そして妄想でしかないそれが現実に影響するのは魔法の力故なのだ。


 早速鍋に水を入れ、切った野菜や麦とワイルドボアの肉で麦粥を作ろうとしていたスエオ。

 味付きのワイルドボアの肉は焼くだけでなく、煮るのにも程よい味付けで万能だったりする。


「そこで何をしている!」


 麦粥を煮込み始めて2分ほど、野営をしている空き地に男の声が響き渡る。

 現れたのは青く月を反射する鎧を身に着けた青年だ。

 その右手には何やら魔力を感じる剣、左手には軽そうではあるが薄く小ぶりな盾。

 どれも高そうな装備である。


 スエオは嫌な予感が的中した気がしていた。

 読者の皆様ももうお分かりであろう。



「俺は勇者だ!うさん臭い男め!俺の目はごまかせないぞ!

 そのうさんくさい見た目だけでも十分に怪しいが、貴様オークだな!

 その女の子は誘拐でもしたのか?

 こんな町の中でそんな魔力を垂れ流して何をしている!」


 料理です。


 勇者(笑)ぜったいせいぎまんとの初遭遇であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る