-77度 勇者のスエオ1

「あれま、おめぇ達あいつに会っちまっただか。

 運が無かったな……いきなり襲われたべか?」


 夕方、日が暮れる前に町の近くまでたどり着いた二人は、ちゃんと不審者に見えないよう手をつないで町へ入る。

 そこで聞いた言葉はスエオにとって妙にすんなりと入り込み、オトワールにも最近聞きなれたイントネーションだった。


「いきなり不審者扱いで剣を向けられたべ。

 この子が可愛いから、おでが保護者のわけが無いとかひでえ言いがかりだったべよ。」


 スエオが門番に先ほどの一幕を説明、氷の檻の中にいるはずなので捕まえて欲しいと伝えると、どうやら常習犯だったようだ。

 常識的に考えれば理解できないような流れなのだが、門番はすんなりと納得していた。


「おめぇがうさん臭いのはともかく、あいつはいつも人を悪者と決めつけていきなり斬りかかってくる通り魔だべよ。

 意味不明な理屈を叫んでいるのは目撃されてたけんど、話しかけられたのは珍しい事だべ。」


 本来はもっとタチが悪いやつだったらしい。

 これで通り魔の被害者が減ると喜ぶ門番は他の兵士に伝えると、8人ほどの兵士が門の外へ向かって行った。

 あと、誰もスエオがうさん臭いのを否定してくれなかった。

 優しい世界になったはずなのにコレである。


 とりあえずスエオは日も暮れるので宿を探すことにした。

 門番に聞いていたオススメの宿もあったのだが、あいにくこの時間には満室になっていた。

 結局自力で探す事にしたスエオであったが、どうも様子がおかしいようだ。


「残念だども、うちももう満室だべ。」


 最初にオススメされた宿から既に四件目だが、いまだに宿を見つける事が出来なかった。


「なんでこんなに宿が埋まってるんだべか?」


 この町はそこまで大きな町と言うわけではなく、宿屋もそんなにないだろう。

 状況次第では町の中で野宿する必要も出てきそうだ。


「なんでも、今日はこの町に勇者様が来てるって話だべ。

 従者様だとか小姓とかがいるから、宿屋も足りないかもとかいってたべ。」


 早く教えて欲しかった情報である。

 四件回ったスエオとオトワールの労力は完全に無駄だったようだ。


「それはしょうがない…んだべか?」

「しょうがないよ!勇者様が泊まるんならしょうがない!!」


 イマイチ納得のいかないスエオに対し、興奮した様子ではしゃぎ出すオトワール。

 スエオはオークの村育ちで、今までロクに人との交流も成立してない。

 勇者という存在も初耳であり、作者がネタ切れでテコ入れで支離滅裂パターンなのではないかと心配になってしまう。

 もうすぐスエオの旅はこれからだ!とか言い出すのではなかろうか。


「勇者様は百年に一度召喚される異世界人らしいんだけど、同じ時期に復活する魔王を倒す役目があるそうなんだ。

 大体どの勇者様も孤児とか奴隷に優しいらしいから、王都に残してきたみんなも生活が楽になるかも!」


 オトワールの説明セリフで読者もスエオも納得したところで、一つ疑問を抱くスエオ。


「そんな歓迎されてる人なのに、町長の家とかには泊まらないんだべか?」


 その言葉を発した瞬間、微妙な顔をする宿屋の主人とオトワール。

 何やら深い事情があるようだ。

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