-75度 改変のスエオ

 スエオは複雑な気分だった。

 年齢が近いとは言え、スエオはオークである。

 十三で成人の自分はともかく、人間で成人には程遠いオトワールが魔法を使う事に少し抵抗があった。


 魔法を使う事自体が悪いのではない。

 それで人なり動物なりを傷つけるという事が引っ掛かるのだ。

 もちろんこの世界では弱肉強食が当たり前で、自衛出来ない人間は食い物にされるだけである。

 社会的か物理的かの違いはあるが、どっちも大差ないだろう。


 オトワールに月の魔力を集めてから魔法の練習を続ける事を指示したスエオは、テントのそばで横になった。

 そう言えば、最近は月の魔力を右腕の封印に集めていない。

 ちょこちょこ封印が解けてた気がするが、今はおとなしく封印されている。

 横になったまま右手を月へと伸ばし、月の魔力を集めようとしてみる。


 魔法を覚えた後だったためか、魔力操作に慣れていたため、かなりの魔力が集まっていく。

 急に横から魔力を奪われたようなオトワールがスエオに抗議の声を上げる。

 そんな様子を笑いながら謝るスエオは、立派な保護者にしか見えなかった。

 これなら、スエオが不審人物を見るような目で見られる事は無いかもしれない。


 ……昨日はオトワールが危ない目にあった。

 今日は外だけど、オトワールが笑っている。

 綺麗な月と、穏やかな焚火の炎。

 こんな時間が続けばいいのに。

 もう少しみんなが笑える時間が続けばいいのに。



 がそれに反応した。

 さっきたわむれに集めたやつだ。


 スエオから見えない波のようなものが放たれた。

 少しだけ心が穏やかになるような、少しだけ優しくなれるような。



 少しだけコメディ色が強くなるような。



 笑顔ってそういう意味じゃないけど、その魔法が使われた事は、ある人を除いて誰も気づいていなかった。

 気付いた人はウホウホ言いながら自分の世界に戻っていった。




 ※※※※※



 翌朝、見張りなんて魔法に任せてがっつり寝ていた二人。

 オトワールは完全にスエオの腕に抱き着いていたが、スエオもオトワールも性格的にドキドキハプニングになんて発展しないのだ。

 スエオが起き上がり、ついでに邪魔になるオトワールを起こすと、二人で朝の支度をする。

 顔を洗い肉を焼きがっつり食ってからテントを片付けて四つん這いになるスエオ。

 ちなみにオッサンの姿のままである。

 朝の支度からの流れで当然のように幼女を背中に乗せて四つん這いのまま走り出すオッサン。


 やっぱり捕縛するべきだったんじゃなかろうかと、その場にいた全ての人が思ったとか思ってないとか。



 スエオが四つん這いで走り続けて数時間。

 そろそろ昼ごはんの時間かなとスピードを緩めた時、そいつは現れた。


「変質者め!その子を開放しろ!!!」


 スエオは何も言い返せなかった。

 オトワールも何も言い返せなかった。

 あったのは変質者にしか見えない自覚だけだった。

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