-71度 うかつなスエオ

 そろそろタイトルが厳しくなってきて若干変化球になりつつある頃。

 そろそろトラブルが起こる予兆だけはあったのだ。


 オトワールが俺っ子とはいえ、身なりを整えた今では立派な美少女だという事をスエオは忘れていた。

 と言うかそこまで人間の美醜は気にしてなかった。

 スエオが宿屋を見つけたその瞬間、別の方向からオトワールの合図があった。

 スエオが魔法で作った、地球で言うロケット花火のような音を出しながら飛ぶ棒である。


「あで?あっちにも宿屋があるだべか?」


 目の前にある宿屋とは別にオトワールも見つけたのだろうか。

 とりあえずスエオはオトワールと合流すべく、合図の方に行くのであった。


 ※※※※※



「くっ!なんだよお前ら!」


 オトワールは怪しい男たちに囲まれていた。

 すぐさま合図を上げたものの、ここから逃げると合流場所がわからなくなるかもしれない。

 そんな一瞬の戸惑いが、男たちが包囲する時間を与えてしまったのだ。


「へっへっへ、もう逃げられないぜ。

 痛い目にあいたくなければ大人しくしな。

 なあに、ちょっとオッサンの相手してやるだけで金が稼げるようにしてやるよ。」


 正面にいる男がリーダーなのだろうか。

 背はそこまで高くないが、がっしりとした体つきにボサボサのヒゲはいかにも悪人だ。

 その左後ろには背が高く少し細めの嫌味そうな顔立ちの男が、右後ろには気弱そうな子供がこちらをうかがっている。


「それ絶対娼館に売り飛ばされるって事だろ!

 俺は今連れと旅の途中なんだよ!あんたが女装でもしたらどうだい?」


 両サイドや後ろにはハゲとかハゲとかハゲとかハゲとかハゲしかいない。

 しかしいくらこのハゲ集団が雑魚に見えたとしても、少女であるオトワールから見れば脅威である事に変わりは無かった。


「親分になんて事言いやがる!」「女装なんてしたら吐くわ!」

「あのヒゲで女装が似合うわけ無いだろ!」「見なくてもわかるだろ!」

「俺はいけますぜ親分!」「この嬢ちゃんには教育が必要なよう「──喚くな。」


 ヒゲダルマのような男が一言発しただけで静まり返るハゲたち。

 統率は取れているようだ。


「さっきのは連れへの合図かもしれない、手早くさらって撤収する──」


 ヒゲダルマがそう言いかけた時。空から影が落ちてきた。


「なんだべ?この辺に宿屋があるんだべか?

 ちょうどさっきあっちの方でも宿屋見つけただべよ?」


 落ちてきたのはスエオ。

 周囲を囲むハゲを無視し、屋根の上かどこからか飛び降りてオトワールの横に立つ。


「なんだこいつ!」「うさん臭いぞ!」

「やっちまえ!」「こいつもいける!」

「金持ってるなら奪っちまおうぜ!」


 スエオの登場に再び騒ぎ出すハゲたち。

 さっきから変態が混じっているようだが、誰一人突っ込むものはいない。


「スエオ!こいつら俺をさらって娼館に売り飛ばそうとしてるんだ!」


 文字通り飛んできたスエオに一安心のオトワール。

 色々常識外れのスエオがこのチンピラたちに負けるイメージはかけらも無かった。


「油断するんじゃありませんよ。

 さっきの合図で宿地区からここに来たにしては早すぎます。」


 細い嫌味そうな男が警戒をあらわにし、スエオをにらみつける。

 この街はそれなりに広く、本当にスエオが宿屋のそばから駆け付けたにしては早すぎるためだ。


 実際にスエオは宿屋の前からオトワールの合図を見て、屋根の上を一直線につっきってこの場にやってきた。

 普通のお話ならもっとオトワールがピンチになってから颯爽と現れる方がクールなのに。

 とことんクールとは縁のないスエオであった。


「女の子さらって売り飛ばすチンピラをやっつけるとかくぅるな展開だべ!」


 ……本人的にはこれでも十分クールらしい。

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