-70度 否定のスエオ

「いや、それは認められぬ。」


 大男の反応は冷たいものだった。

 いくら見た目がオークじゃなくなったとは言え、元がオークだったのは分かっているのだ。

 と言うか目の前で人に化けられた事で、警戒度はさらに上がっている。

 むしろ上がらなければ門番として無能ではなかろうか。


「ス、スエオはオークだけど優しいんだ!

 親に売られた俺の面倒を見てくれたり、保護者代わりに色々教えてくれたり。」


 必死にスエオを庇うオトワール。

 遠くで「色々教えるだとおおおおおおおお!」と勘違いする門番変態の叫び声が聞こえるが、気にしてはいけない。


「少なくとも今この場では通すわけにはいかぬ。

 お主が魔法か何かで操られていないという証拠も無いのでな。

 なに、今取り調べ用の魔道具を持ってきてもらっておる。

 本当にやましい事が無ければ、人の姿でいる限りこの街に滞在する事を許されるであろう。」


 大男はスエオの荷物の中にあった、木札を手で弄りながら答えた。

 昔、貴族を助けた時に騎士からもらった木の札である。

 具体的に言うと-5度ぐらいの頃だ。

 これが無ければ取り調べにすらならず、即討伐でもおかしく無かった。

 この木の札がスエオとオトワールの命を一時的に救ったのである。


 ……スエオは「またあの木の札役に立ってねぇべ……」とか思っていたが。

 木の札のプラス要因よりも、オークというマイナス要因が大幅に勝っているからだと気づいていないのは本人だけなのかもしれない。



 ※※※※※※※※※※



「さて、とりあえずどうするべ?」


 門番から解放され、無事に街の中に入ったスエオとオトワール。

 この前までいた村とは全然規模が違うようだ。

 とりあえず宿屋を探そうと歩いていると、周囲の視線が二人に刺さる。


 本人たちは忘れているが、うさん臭いオッサンと少女のコンビである。

 はぐれないように自然に手をつないでいる所も不自然に見えるのだろう。

 そんな二人から宿屋の場所を聞かれても、誰も教えてくれる人はいなかった。

 少女の不幸を回避したかった、街の人のほんのわずかな親切なのだ。


 ……結果街の中で野宿する羽目になったとしても。


「なんでみんな宿屋すら教えてくれねぇだか?

 そんなにこの街の宿屋は嫌われてるんだっぺか?

 それとも利用する連中が何か悪さでもしたんだべか?」


 悪いのはスエオの見た目だけである。

 このままでは本当に野宿なので、二手に分かれて宿屋を探す事にした。

 今いる街はそこそこ広く、商業地区や鍛冶地区など、業種ごとに地区が分かれているようだった。

 先に宿屋地区的な物を見つけたら合図を送る事を決め、二人はその場で解散した。


 二人とも少し油断していたのかもしれない。

 特にオトワールはスラム育ちなので気づくべきだった。

 大きな街には大抵近づいてはいけない場所がある事を。

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