-72度 速攻のスエオ

「トウリン・ゴクク・イジュク・タイリョウジュクノウ・アクケン・タクノウ……」


 囲まれていながら長々と詠唱を始めるスエオ。

 ちなみに相変わらず意味は無く、スエオがカッコいいと思っているから言ってるだけの言葉である。


「こいつは魔術師かっ!すぐに取り押さえろ!!!」


 ヒゲダルマが下っ端に命令すると、ハゲたちが一斉にスエオに襲い掛かる。

 しかし、スエオの足元には謎の魔法陣が浮かび上がっており、その円周を囲むように炎が吹き上がる。


 スラム地区で瓦礫がれきと道との区別がついておらず、ある程度の広さがあったため、一応ハゲたちは炎に巻かれずに済んでいる。

 しかし、スエオが詠唱を繰り返すたびにどんどん炎の熱は高まっていき、赤から青へ、青から赤黒い物へと変わっていった。


「こんなもの私の魔術にかかればっ!」


 細い嫌味とヒゲダルマが連携をみせる。

 氷の魔法で炎を打ち消し、その隙にヒゲダルマが突撃して攻撃するつもりだったのであろう。

 しかし、スエオの魔法はただの炎では無かった。


「もらったっ──ガフッ」


 氷の魔法で消えた炎の中から現れたのは鉄の炎。

 急激に冷えた事で脆くなっているのだが、炎の形そのままの鉄はヒゲダルマの全身を切り刻む。

 突っ込んだ勢いそのままに鉄の炎に切り刻まれ、慌てて戻るも既に満身創痍まんしんそういだ。

 しかし、炎も鉄の炎も無くなったその隙間に、今度は気弱そうな子供が体を滑り込ませて侵入する。


「役立たずがっ!俺が仕留めるっ!」


 気弱そうに見えたのは演技だったようだ。

 ヒゲダルマや細い嫌味をチラリと睨むと、その身軽な体を生かし短剣片手にスエオへと突っ込んだ。

 しかし、砕けた鉄の炎は一つ一つが剣や杭となり飛び込んで来た子供をはばむ。


「ニンク・イッサイコンメツ・ムヒガンジュク・セツセツ・イッサイアン・ニョヒチュウダ……」


 スエオの詠唱は続くが、既に鉄と炎の剣に阻まれ手出しが出来ない状況だ。

 ヒゲダルマは傷だらけ、細い嫌味は魔法が通じず、本当のリーダーらしき子供は無事だが攻撃手段が無い。


「サイケン、魔石の使用を許可する。

 最強の氷魔法でこの炎を鉄ごとぶっ飛ばしてしまえ。

 ビンタツは俺とサイケンの時間を稼ぐぞ!」


 細い嫌味ことサイケンは、懐からピンポン玉サイズの魔石を取り出すと詠唱を始めた。

 ヒゲダルマことビンタツはリーダーっぽい子供と一緒に石や瓦礫がれきを投げつける。

 それを見た周囲のハゲたちも石を投げたりして時間をかせごうとしていた。


「北の大地より死の風来る、万物を止め万事を止め、全ての負の止める氷結の嵐。

 我が魔力を呼び水に、この魔石を食らい育った死の風よ!敵の全てを停止させん!

【エンドレスブリザード!】」


 サイケンが厨二病満載の詠唱を終え、魔石が砕け散るのと同時に魔法を放った。

 全ての炎が吹きとび、鉄の炎が砕け散り、生まれる剣はその場で凍り付く。

 何故チンピラの真似事をしているのかわからないような、とてつもない威力の魔法だった。


 氷と炎が打ち消し合い、風が鉄を砕き吹き散らしたそこには。



「すっげえ魔法だったべな!カッコ良かっただべよ!」


 ──無傷のスエオとオトワールが立っていた。



 ちなみにハゲは全員凍ってた。

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