-64度 ほうしょくのスエオ
「またワイルドボアなのね、すごいわねぇ……
でもなんで毎回味がついてるのかしら?」
肉を持ち帰ったスエオに、おばあさんからあきれたような声がする。
この村は街道の途中の宿場村のような場所であり、狩りが出来るような森までは距離がある。
そんな森にいるはずのワイルドボアを毎日持ってくるスエオに、おばあさんは感心半分、なぜか毎回ついている味に飽きが半分と言った所であった。
「たまには違った味付けにして来ればいいのにねー。」
事情を知っているオトワールは、内心冷や汗を流しながらおばあさんに返事をする。
正直これが元は何の肉なのか知らないままだが、世の中には知らない方がいい事もあると理解しているオトワールであった。
「毎日肉が食えるんじゃ、贅沢はいかんぞい。」
そんなおじいさんのフォローのような一言に、スエオもオトワールもほっとする。
おじいさんからしてみれば、ちょっとした寂しさを誤魔化すように家に誘った二人だったが、一人は毎日肉を持って帰り一人は家の事を手伝っていた。
それはまるで息子夫婦が帰って来たかのようだった。
……一人はうさん臭いし、一人は幼すぎるが。
食べきれない肉と皮は肉屋と革加工の職人に売り、徐々に路銀も貯まっているようだ。
金貨や銀貨だけでは重くなってしまうので、宝石などに変えるのも忘れない。
山も森も遠いこの村では、川でガーネットなどの小さな原石が拾えるだけである。
自分でも拾い、購入もしているスエオの財産は、ほぼほぼ宝石の原石に変わっていた。
……豚に真珠ならぬ豚に宝石である。
今日も同じ味の焼いた肉、それをアレンジして作ったシチュー。
お腹いっぱい食べて、ぐっすりと眠る。
そんなぬるま湯のような毎日がもう1か月過ぎていた。
「コレ磨くだけで値段が全然違うんだべなぁ……」
オトワールと同じ部屋だという事に、おじいさんとおばあさんは問題を感じないらしい。
スエオが女性を無理やり襲ったりはしないと思っているようだった。
オトワールもそこは信頼していた。スエオがヘタレだと。
そんな二人で寝る直前、集めた宝石の原石を眺めながらスエオはつぶやいていた。
同じ大きさどころか、サイズは小さくなっても磨いた方が高いのだ。
もちろん高い技術で磨かれるため、技術料が上乗せされるのだ。
しかし、スエオには原石も十分綺麗に感じており、小さくしてまで磨く必要性を感じなかったのだ。
だって美意識なんてない豚だし。
「解体魔法みたいに、それも綺麗に磨いたり出来ないのか?」
ふとオトワールがつぶやいた。
ゴブリンすらワイルドボアに変えてしまうスエオの魔法なら、意外といけるんじゃなかろうかと思ったのだろう。
後にオトワールはこの時の発言が本当に良かったのかどうか、一生涯悩むことになるのだった。
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