-63度 今夜のスエオ

「どうすんべか。困ったべ……」


 スエオは村の中をさまよっていた。

 宿を探し続けたのだが、空き部屋が無かったのだ。

 いや、正確には無かったわけではない。

 二人部屋が一つだけ空いていたのだ。


「なんであんなに怒るんだべか?」


 その二人部屋に泊まろうとしたスエオとオトワールは、受付の世話焼きおばさんのような人に止められた。

 関係を聞かれ、保護者と被保護者の関係だとか(どっちがどっちとは言っていない)命の恩人だとか説明すると、今度はそれを盾に脅しているなどと決めつけられたのだ。

 例え自分が悪人だとしても、追い出したら結局オトワールは危険なままなんじゃないかなどと考えながらオトワールに問いかけるスエオ。

 オトワールは何故なのかを理解しつつも、何も言えないでいた。


 スエオがうさんくさすぎるから


 そんな事は口が裂けても言えないオトワールだった。



「おや、お二人さん何やらお困りかね。」


 そんな二人に話しかけてきたのは腰の曲がった杖を突くおじいさんと、その横で買い物かごを持ったおばあさんだった。

 二人とも優しい顔をしており、オトワールの目にも悪い人には見えなかった。


「実は……」


 事情を一から説明するオトワール。

 スエオが説明すると色々と誤解も生じかねないので、こういう時に話すのはオトワールの役目だ。

 宿が無い事、なぜか不審者だと追い出された事、目的地は温泉のある村だという事を説明し終わったオトワールは、今度から説明を事前に考えておこうと心に決めた。


「それならうちに泊まるといい。息子夫婦が街へ行ってしまってのぅ……」


 寂しそうな顔で言うおじいさんと、ニコニコしたままのおばあさん。

 正直こんなうさんくさいスエオを泊めるとか正気の沙汰ではない。


「い、良いんですか?」


 勢いよく確認するオトワールに、思わず笑ってしまうおじいさん。

 ニコニコしたままのおばあさんと、つられてニコニコ……もとい、にやついているように見えるスエオ。

 一応みんな笑顔だった。

 一人うさんくさいけど。



 おばあさんの荷物を持ち、二人の後をついて行くスエオとオトワール。

 スエオは『優しい人だべ』ぐらいしか思っていなかったが、オトワールは逆に少し警戒していた。

 こんな善意を心から信じるほどスラム暮らしは甘くなかったのだ。


「ほら、ここじゃ。わしらの家に着いたぞ。」


 着いたのはそこそこ大きめの家、おそらくは街に行ったという息子夫婦と一緒に住んでいたからだろう。

 二人で住むには確かに広すぎる家だった。


「さあさあ入りましょう。早く夕食にしないと日が暮れてしまうわ。」


 初めて声を聴いた気がするおばあさんの案内で、スエオ達は中へと入っていった。



「さて、それじゃあ一緒にお料理しましょうか。」


 おばあさんに誘われて一緒に料理する事になったオトワール。

 スエオはカバンから保存食を全て取り出すと、二人に渡した。

 保存食はこの村を出る時に買いなおすとして、ひとまずは足りないであろう夕食の材料にしてもらおうとしたのだ。


「あらあら、干し肉が入るなんて豪勢ねぇ。いつぶりかしら。」


 そんな一般人の一般的な夕食が、少しだけ心に響くスエオとオトワールだった。



 田舎の老人スキル、【腹一杯なのに食わせる】が発動し、胃にも響いた二人だった。

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