-51度 しをまくスエオ

「これ、どうするべか……」


 スエオの目の前には山のようなタイ児が積みあがっていた。

 前方には土のトゲに刺さって程よく焼かれたタイ児の串焼き。

 右手側は保存できそうな冷凍タイ児。

 左手側はつみれ……には内臓が入ってて難しそうなミンチ状のタイ児。

 そして後ろにはお腹をすかせ、匂いにつられてやってきたスラム街の子供たち。


「お、オトワール来ただか。

 前のトゲに刺さったやつは食えそうだからみんなで食べるだーよ。」


 スエオの獲物という事で様子を伺っていた子供たちだが、許可を出した途端飛びついた。


「トゲには気を付けるだーよ!

 さ、オトワールもおでと一緒に食うべ。確かバッグには塩があった気が──」


 スエオがそうつぶやいた瞬間、すぐに走っていく一人の子供。

 どうやら一番足が速い子供のようだ。


「持ってきたよ豚のおっちゃん!」


 そこでスエオは気づく。

 自分が本気を出すためにオークの姿だったという事に。

 そして、オトワールに普通に話しかけてしまってた事にも。


「やっぱりおっちゃんだったんだな。

 街を救ってくれてありがとう、これならおっちゃんも牢屋に入れられないで済むかもな!」


 スエオはうれしかった。

 自分がオークだという事で嫌ったりせず、それどころか気にせず慕ってくれた事に。

 頑張って街を守ったご褒美だというのであれば、スエオにとっては十分な報酬だった。


「とりあえず焼けたのを塩で食べるべ。

 他に香辛料とかもあるけんど、本当は焼く前がいいんだべ……」


 そういいながら魔力を込めて塩を振るスエオ。

 手の形は数字の2のようで、地味に肘にあたっているのが不衛生である。

 しかしそれは高い位置から油をかけるモコおりいぶよりも効果的な、世界に通じる塩の振り方せくしぃ塩ふりだった。


「すげえ!塩振っただけなのにバカみてえに美味くなった!!」


 子供の一人が叫ぶと、子供たちがそれぞれタイ児を持ってスエオの周りに集まってきた。

 ちゃっかりオトワールも交じっている。


「ソルトスプラッシュだべ!!」


 塩を振りつつ回転するスエオ。

 魔法の力も手伝って、周囲の子供たちが持つタイ児にきれいに降りかかる塩。


「……おっちゃんどんだけ塩持ってんだ?」


 塩を振り続ける事三分。

 途中から魔法で塩の量を復元していた事にはスエオ自身も気づいていない。

 そして、それを子供たちが不思議に思う頃、子供の周囲にはスラムの大人たちが集まっていた。


「……大人たちも食べていいだーよ。

 食べきれないくらいあるんだから奪っちゃダメだべ。

 ちゃんと子供たちと一緒に順番に並ぶべ。」


 こうして子供たちより高い位置にタイ児を掲げた大人たちにも届くように、さらに回転が速くなるスエオ。



 後世、この事件から作られたスエオの石像は噴水になっており、指先から水を出し続けるその姿は飽食の象徴とされ、魚を持って塩を撒く祭りがこの王都に誕生───


 するわけが無かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る