-50度 たいじのスエオ3
オトワールはその戦いをじっと見つめていた。
今いるところは街壁の崩れた場所から外に出たところだ。
そのまま町の外へとスラムが続いている。
おそらくはここが一番危険な場所となるだろう。
しかし、ここにいる子供たちには他に避難する場所なんてどこにもなかった。
「あの魔法使いの人、まさか……」
あの気配。オトワールはあの人だと確信していた。
「え?昨日助けられたっていうおっさんがあのオーク?
なんでわかんだよそんな事。ありえなくねえ?
……まあお前は聖女っぽいかもしれないけどさ。」
隣で男の子が顔を真っ赤にしてそう言った。
この国で知られている勇者物語では、聖女が勇者の温かく優しい気配を感じ取り、旅を続けて勇者を探し出す事に成功するといった話がある。
それから引用し、チャラ男が君の気配を感じるよとかいう歯の浮くような口説き文句を言うぐらい皆が知っている事だった。
まさかオトワールがあのおっさんにそれを感じているのだろうか。
「あの感じ……あのうさんくさい感じはきっとあのおっさんだよ!」
男の子と他数名がずっこけた。
「ぬぐおぉぉぉぉぉごごごごごぼぼぼぼぼぼ」
もはや人らしい声どころか、豚の鳴き声にもなっていないスエオ。
クールにさっさと片付けるとか甘く見ていたのが大誤算である。
このタイ児たちは召喚された生き物なのか、どんどんと死体が積み重なっていく。
死体が魔法を遮る壁となる前に、スエオは後ろに大きく跳躍。
前の土の壁を手前に引き倒し、その後ろにまた土の壁を出す。
きれいに後ろにズレた形になるのだが、何度も繰り返しているうちにだんだんとギリギリになってくる。
──畑まで残り数十メートル。
後ろへ下がれるのも残り数回だろう。
……いや、魔力が尽きるのが先か。
スエオが一瞬諦めそうになったその時。
右肩に一匹のタイ児が突き刺さった。
「ティウンティウンティウン!
……ピチューンの方が良かったかしら?弾幕的に考えて?」
その瞬間。
スエオの後ろに、全身真っ黒のゴスロリ少女が現れた。
「いやもうね、見た目十歳でバブル時代のギャル語とかって設定に無理がありすぎなんだよね。
せっかくこの私が登場したのに大した反応も無いしさ、ツンデレチックに登場しておきながらヒロイン枠どころかレギュラーすら怪しいレベルの即退場、マジふざけんなし。
メタネタ嫌う人が多いのは知ってるけどさ、混沌って名前に入ってるんだから多少世界観ぶっ壊すようなメタネタやっても良くない?
って言うかこの作者いまだに私の名前考えてなかったりするんだよ?マジありえないんですけど。
前回は腕切り飛ばされた上に、封印の氷壊されて出てきたんだけどさ、今回ちっちゃなタイが刺さっただけよ?
そりゃ魔法とか使いっぱなしで封印続ける余力とか魔力とか無いのかもしれないけどさ、そんなポンポン私が出ちゃったらありがたみがなくなるわけじゃん?
もうちょっとほら、ギリギリのピンチとか一発逆転の最後の切り札として出てくるからこそヒロイン枠に一歩近づけると思うんだよね。
いや、こんな豚の彼女役とかさすがに嫌だけどさ、モブよりマシじゃんモブより。
それなのになんで主人公のアンタがひたすら物量で押すだけの雑魚相手に消耗戦やってジリ貧になってんの?
タイ児と対峙して退治って盛り上がりも何もないじゃん、バッカじゃないの?
だからこんな雑魚どもドーン!」
出てきた瞬間から怒涛の如くしゃべり続けたかと思うと、最後に熱光線で平原を薙ぎ払った【世界を食らう混沌】。
慌ててスエオが封印しようとすると、「次はもうちょっと活躍できる舞台を用意しときなさいよ!」と言いながら右腕に吸い込まれていった。
遠くの港町が燃えているようで、煙が上がっている。
土の壁のトゲトゲに突き刺さったタイ児たちも、程よく焼けていい匂いだ。
「……とりあえずメシにするべ。」
現在の王都死傷者数:軽傷5(スラム街で子供が転倒)
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