-43度 真夜中のスエオ

 予想通りスエオは牢屋で休んでいた。

 牢屋にしては珍しく、寝床はちゃんと木の枠に藁を詰めてシーツまでかぶせてある。

 石の床で寝なくていいだけで天国である。

 コケが生えてたら少し柔らかくていいよねとか思ってしまうスエオはもう手遅れなのだろう。

 寝るのは遅かったが、久々に一応は柔らかいベッドに喜ぶスエオであった。


「おい!おっさん!起きろ!」


 やっと寝付いた頃、外から子供の声が聞こえてきた。

 仕方なく眠たい目をこすりながら、起き上がり明り取りの窓から外を見る。

 そこには一人の子供がいた。


「……おめえ誰だべ?」


 スエオは忘れていた。

 この子はヘセホタに腕を引っ張られていた、借金のカタに売られた子である。


「……オレの事忘れてたのかよ。

 ほっとけば良かった……」


 既にスエオと関わった事自体を後悔している気がするが、根はいい子なのかもしれない。

 こうやってスエオの様子を見に来たのだから。


「ああ、あの逃げた子だっぺか。

 話聞いたら、ちゃんと訓練してから働き先探してくれるらしいべ。

 借金のカタに売り飛ばす親より幸せになれるかもしれねえだよ?」


 自分は牢屋で寝ておきながら子供の心配をするスエオ。

 まるであきれたように溜息をつく子供に、ニコニコと笑うスエオ。

 どっちが不幸なのか誰も区別がつかないだろう。


「おっさんはオレをかばって捕まっちゃったんだろ?

 出来る範囲でならここから逃げる手助けするぜ?」


 スエオは子供の優しさに感動しつつも、困った顔をする。

 その右手にはまった従魔の腕輪があるからだ。

 スエオの目線から腕輪に気づいた子供は、悲壮な顔をする。


「おっさん奴隷になっちまったのかよ……

 俺を逃がしたばっかりに……ごめんな……」


 奴隷の腕輪と従魔の腕輪は一緒なのだろうか。

 スエオがはめている腕輪を奴隷の腕輪と勘違いした子供だが、ある意味都合がよかった。

 オークではなく、胡散臭いおっさんとして子供に接していればいいからだ。

 オークだという説明をするのは混乱を招くだけだろう。

 【胡散臭い】が外れないのはもはやどうしようもない現実である。


「おでの事は気にしなくていいだよ。

 とりあえずお小遣いあげるから、美味いものでも食ってから戻るといいべ。

 あの時の連中も貴族と関わりあるって自分で言ってただよ。

 って事は変なところじゃないと思うべ。」


 意外と考えていたスエオであった。

 貴族とのつながりを語るやつが悪いことをしてたら貴族に潰される。

 そう考えていたのだが、若干考えが甘かったようである。


「そんな事言ったって、スラムのガキが娼館に売り飛ばされるなんて別に悪い事に入らないからな。

 オレ娼館だけは嫌なんだよ。女だからって一括りにされるみたいでさ。

 オレだって男に負けない細工職人になりたいんだよ!」


 【速報】この子供、実は女の子だった【オレっ子】


(これは本当にオークだってバレないようにしないとまずいべ……)


 びっくりして混乱するが、オークだということを秘密にする事だけは忘れないスエオであった。

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