-42度 こうそくのスエオ

 スエオはまだ気付いていなかった。

 手にはめたブレスレットが、自身を束縛する従魔の証だとは。

 その瞬間、スエオがドウに突き飛ばされると同時に、説教男の短剣が空を切った。


「おいドウ!何邪魔してやがる。

 豚は駆除しなきゃ駄目だろ?」


 もはや出会ったときの面影は既に無い。

 完全に戦闘狂へと変化していた。


「黙れツカツ。

 貴様に許されているのは危険分子の洗い出しまでだろう。」


 スエオを庇うように立つドウ。

 説教男改めツカツは、舌打ちするとスエオを睨みつけ、短剣を鞘に収めた。


「へっ、クソ豚を従魔になんかしやがって。

 この変態野郎が、好きなだけ〇☆◇#※◆◎……」


 どうやら性描写なしフィルターがかかったようである。

 卑猥なツカツの発言にドン引きしつつも、スエオはショックを受けていた。

 従魔というものが何なのか。

 詳しくは知らないスエオだが、少なくとも友達や仲間といった関係では無さそうだからだ。


「従魔ってなんだべ!おめえ俺を騙しただか!?」


 腹を抱えて指さして笑うツカツに腹立つものを覚えながら、騙したドウにも腹を立てるスエオ。

 思わずドウの胸倉を掴むと右手首のブレスレットが急に締まり、激痛が走る。


「やっぱり騙しただな!おめえぜってえ許せねえだ!!」


 手首を抑えてうずくまるスエオに、ドウはそっと背中に手を添えて語りだした。


「落ち着いてくれ、それは一時的に付けさせてもらっただけだ。

 この王都で魔物が身の安全を守るには、誰かの従魔である必要がある。

 一応俺もこの国の騎士だから、俺の従魔であるという事なら誰かに傷つけられる事も無いと思う。

 窮屈かもしれないが、我慢してくれないか?

 命の恩人である君を従魔にするのは心苦しいが、これも君を守るためだと思って我慢してくれないだろうか。」


 スエオはカッと熱くなっていた頭が冷えるのを自覚した。

 一瞬でも疑った自分が恥ずかしかった。

 ドウは悪意を持ってやったわけではなく、スエオの身を案じてやった事なのだ。


「そういう事なら我慢するべよ。

 でもそこのツカツとかいう男にはもう関わりたくねえだ。

 ついでに変装の魔道具が使いづれえから、そこの男の鑑定とかをやめさせるべ。」


 スエオがそう言って変装の魔道具に触れ『【変装】するべ』と唱えると、またもや胡散臭いおっさんの姿になった。

 今度は鑑定がかけられていないからか、魔道具の消費魔力はそこまで多く無いようである。


「その姿なら大丈夫かもしれないな。

 とりあえず俺と一緒に騎士の詰め所まで付いてきてくれないか?」


 スエオは正直もう眠かった。

 そんな時に騎士の詰め所と聞き、いい牢屋宿屋だといいべとか思っていた。

 もはやナチュラルに、騎士の詰め所というワードから牢屋で宿泊する所まで連想していたスエオであった。


 さすがにちょっとかわいそうである。

 従魔の腕輪で拘束されながらも、嬉しそうに高速で詰め所へと向かうスエオの後ろ姿。

 ドウどころか、ツカツでさえも少し哀れに感じてしまうのであった。

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