‐41度 さいかいのスエオ

「いたぞ!こっちだ!」


 どうやらスエオが悩んでいる間に、騎士が来てしまったようだ。

 変装の魔道具は説教男がいる以上、魔力を大量に奪われて戦えなくなるため使うことが出来ない。

 とっさにゴミ山の裏へと逃げ込むと、気配で状況を把握しようとした。


「おとなしく出て来いよ豚野郎!

 こう見えても俺はとある貴族様に縁があってな。

 お前がこの街にいる以上、もう逃げられないからな!」


 説教男はとりあえず黙らせておくべきだ。

 そう判断したスエオは、気配を頼りに説教男を氷の壁で囲んだ。


「んなっ!?こんのクソ豚がぁぁぁ!!!」


 完全な不意打ちで氷に囲まれた説教男は短剣を氷壁に叩きつける。

 しかし数回目で短剣が氷壁に刺さり、抜けなくなると素手で殴りつけた。

 たちまち貼りつく拳。

 まさか氷が冷え続けているとは思わなかったのだろう。


「クソ豚がぁぁぁ!!

 おい、ドウ!まずはこの氷を溶かせ!」


 説教男が命令したのは一人の騎士。

 しかし騎士は命令を無視すると、姿を隠しているスエオへの警戒を続けていた。

 ボソボソと説教男に喋りかけているが、スエオの事を聞いているのが漏れ聞こえる。


「中々隙のねえ騎士だ……べ?」


 ゴミの隙間からスエオが騎士をのぞき見た瞬間。

 スエオは選択を迫られた。


 再開か再会か。


 また親父ギャグである。

 現れた騎士は、オークの村を出てすぐに助けた護衛のリーダーっぽい人だった。

 このまま戦うのか、それとも騎士と話をするべきか。

 木札をくれた人なのだ、助けてくれるかもしれない。

 しかし、王都の真ん中でオークの存在が許されるのか。

 既にスエオの中には、人間不信が芽生えていたのだ。


「木札を持った男がオークだったと聞いた!

 私たちを助けてくれたあのオークなのか?」


 騎士がスエオに語りかける。

 大声でありながら威圧感を感じさせないその叫び方は、護るための騎士であることを感じさせるものだった。

 しかしスエオがそんな事に気づけるはずがなく、ただ何となく覚えた安心感で騎士を信じることにした。

 野生の勘かも知れない。豚だし。


「おではあんたが盗賊と戦っていた時に加勢したオークだべ!

 そこの男を何とかしてほしいだべ!」


 スエオは声を張り上げ、騎士へと助けを求めた。

 騎士は笑顔で近づくと、スエオへと優しく語り掛ける。


「君の身柄は我々が預かる事にする。攻撃をせずに出てきてはくれないか?」


 スエオがゴミの影から姿を現すと、騎士はブレスレットを持って近づいてくる。


「これは木札と同じように身分を保証するものだ。

 これを身に着けていればこの男のようなやつから攻撃される事も無いだろう。」


 スエオは頷きブレスレットを受け取ると、に身に着けた。

 こうしてスエオは従魔となり、スエオの身分は王都でに転落した。

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