-44度 たいめんのスエオ1
「とりあえずは夜中に女の子がうろつくのは危険だべ。
送っていくから今日は帰るべよ。」
オレっ子は意味が分からなかった。
当たり前である。牢屋の中にいるはずのスエオが送っていくとかどこに行くんだという話だ。
「え?おっさん出れないだろ?オレ一人で帰るからいいぞ?」
ついに頭がいかれたのかと心配するオレっ子は、スエオを置いて帰ろうとする。
第一、自分を売り飛ばした親のところに帰るわけにもいかない。
これからは宿なしのサバイバル生活だが、親がいたとはいえ、今までスラムで生きてきたのだ。
少なくともすぐに困るような事は無いだろう。
「だめだべ。女の子は直ぐ襲われちゃうから、ちゃんと守れって師匠も言ってただよ。」
そう言いながらおもむろに窓の鉄格子を掴むスエオ。
腕がほんのり光って力んだかと思うと、まるで元から取り外しが可能だったかのように周囲の壁ごと抜きとった。
「え?あえ?それ取れんの?」
素で聞いたオレっ子だった。
「あれは魔法で鉄格子の周りに切れ目を入れただよ。
戻ったら元に戻すけんど、きれいになりすぎる時があるからダメなんだべ。
鉄格子よりも壁の方がバレにくいからな。あれが一番マシなんだべよ。」
もはやオレっ子には意味不明だった。
自力で脱獄できるのであれば自分はいらないのではないか。
なぜおとなしく捕まっているのかわからなかった。
「でもこれ魔法が使いにくいだよ。これも外れねえべか?」
そこでオレっ子は思い出した。
このおっさんは奴隷の腕輪をつけており、これがある限り遠くまでは逃げられないのだ。
せっかく簡単に脱獄できる力を持っているのに、このおっさんは自分のせいで逃げられなく──
「お、結構簡単にちぎれただよ。」
──オレっ子は深く考えることをやめた。
「おでの名前はスエオだべ。くぅるなオ……とこを目指す旅をしているんだべ。」
今更ながらに自己紹介をするスエオ。
一応オレっ子の家のそばまで来たからである。
「オレの名前はオトワールだ。
……なあ、本当に牢屋に戻るのか?
今なら逃げられるんだろ?」
オレっ子改めオトワールには理解できないだろう。
スエオが牢屋を快適な宿ぐらいにしか思っていないだなんて。
しかも王都の牢屋はさすが都会なだけあって快適だとか思っているだなんて。
スエオにとっては取れない宿、お断りされる宿なんかより、よっぽどマシなのだった。
「とりあえず明日貴族様と会うらしいから、それからどうするか考えるべよ。
おめえもまた親に売られそうになるくらいなら一緒に旅に出てもいいべ。
くぅるな男にちっちゃい子供は時々ある事だべ。」
『ちっちゃい子供』ぐらいのところで脛を蹴られたが、スエオは全く痛みを感じておらず、蹴った側のオトワールがつま先を抑えて飛び跳ねていた。
もうオトワールには何もかもがあべこべのような気がして、これは夢じゃないのかと思うのであった。
……足の痛みですぐ夢じゃないと思い知るけど。
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