-37度 捜索のスエオ

「んで、おっさんは何者なんだ?

 子供を助けようとしたのか、横取りしようとしたのか区別つかないが。」


 ヘセホタが足のしびれに耐えきれず、地面に転がった頃。

 今まで説教していた男が、今更ながらスエオの事を気にしだした。


「おではくぅるになることを目指して旅をしてるだけの男だべ。

 連れ去られようとしている子供を助けるのはくぅるだと思ったから、そいつの腕を掴んで止めただけだべ。」


 しょんぼりと説明するスエオ。

 周囲の男たちは、うさんくさいおっさんがしょんぼりしている様子に笑いをこらえていた。


「そんなツラしてたら助けた子供も逃げるんじゃねえのか?

 ……って逃げたんだっけか。

 おい!お前らこの辺探してこい!」


 説教男が号令をかけると、周囲の男たちはかけ声とともに散らばっていった。

 どうやら、それなりに統率は取れているようだ。

 ……ヘセホタ以外は。


「そ、それじゃあおではもう行くべ。」


 スエオがそう言って脱出をはかると、説教男が肩をガッシリと掴んだ。

『目が笑ってない』で画像検索するとトップに出てきそうな笑顔を浮かべる説教男。

 スエオは何故か逆らえなくなっていた。


「お前も探すよな?」


「……も、もちろんだべ。」




 もうすぐ日が暮れる頃、街壁のそばのスラム街はとっくに暗くなっていた。

 子供を探して歩き回っていたスエオは、悲鳴を上げられたり逃げられたり絡まれたりして疲れ果てていた。

 最後のは半銅貨三枚しか持ってなかったし。


「見つかんねえだ……

 ってか、なしておでは探すの手伝ってるんだべ?

 疲れたからもう宿探しに行くべ。」


 子供を探している時に見つけた、宿屋があった気がする場所へと戻ると何やら騒がしい。

 先ほど通った時はわからなかったが、どうやら一階が酒場になっているようだ。


 とりあえず動物お断りじゃないことだけ確認すると、宿屋の主人らしき人に話しかける。

 ちなみに今スエオは人の姿であり、動物お断りでも問題は無いのだが、トラウマになってるようだ。


「一泊いくらだべ?」


 その瞬間後ろから肩を掴まれる。

 とっさに手を払い、臨戦態勢になるスエオ。

 気配に気づかなかった事も驚きだが、つい本気で払った手もダメージは無さそうだ。


「なに宿なんて取ってんだよ、俺らのねぐら貸してやるぜ?」


 説教男だった。

 もはやアジトに連れ込む気満々である。

 スエオでなければ別の意味で身の危険を感じていたかもしれない。


「お、おでは一人部屋じゃないと寝付けないんだべ。

 宿に泊まる方がいいだべよ。」


 説教男は、またもや目が笑っていない笑顔でスエオを見つめる。


「え?ガキが見つかるまでは寝るわけ無いよな?

 お前が逃がした一番の原因だし、ヘセホタも寝ずに探してるのに?」


 もはや脅迫である。

 スエオは冷や汗を流しながら、何とかこの男から逃げ出す方法を探すのであった。

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