‐36度 説教のスエオ

「何やってんだヘセホタ、ガキはどうし……なんだその胡散臭いおっさんは。」


 ヘセホタと呼ばれたのは細マッチョの事だろう、声をかけた男以外にも知り合いらしき男たちが続々と現れた。


「こいつが邪魔したからガキに逃げられたんです、全部こいつが悪いんですよ!

 こいつ胡散臭いけど馬鹿力で、この手を放しやがらねえんです!」


 細マッチョ改めヘセホタは、腕を掴まれたままの手を上げて助けを求めた。


「い、嫌がる子供を引きずる男さいたから止めただけだべ。

 話を聞くだけのつもりだっただーよ。

 逃がしたのはこいつが悪いと思うべ?」


 スエオは責任転嫁で、男に全てを押しつけようとした。

 クールは全力疾走で逃走中のようだ。

 しかし、そんな茶番にごまかされる男たちでは……


「だってよ?ヘセホタ……わかってんのか?あぁん?」


 ごまかされた。チョロい。


「いや、すごい力で腕を捕まれて、その隙に逃げられちまったんだよ!

 見てくれよこれ!全然抜けねえんだそ!?」


 そう言いながら腕を振り回すヘセホタ。

 スエオは掴んでいたままだったので、手を離してあげた。


「うわっ!?」


 離した途端、勢い余って転がるヘセホタ。


「外れるじゃねえか、お前なめてんのか?」


 手を離したからなのだが、この偉そうな男はチョロい上に頭も悪いようだ。

 スエオにそう思われるくらいだからよっぽどなのだろう。


(この場を離れるなら今のうちだべ……)


 そっと後ずさりでこの場を去ろうとするスエオ。

 ヘセホタがボコられている間ならばれないかもしれない。


「てめえも無関係じゃねえだろ、そこで正座してろやゴルァ!」


 世の中はそこまで甘くはなかった。

 どう見てもアウトローな連中に、筋の通し方や謝り方など色々と説教を受ける事になったスエオ。

 しかし、スエオもヘセホタも暴力を振るわれる事はなかった。

 ちょっと小石が転がる路地裏で正座をしたまま数時間説教されただけである。


(……意外とそこまで悪いグループじゃ無いんだべか?)


 暴力を振るわれることも無い、説教だけの現状にスエオは疑問が浮かぶ。


「だ、だども親の借金で鉱山送りや変態野郎に売り飛ばすのはかわいそうだと思うべ!」


 スエオがそう反論してみると、固まるヘセホタと偉そうな男。


「てめぇそんな事言いやがったのか!不安をあおってどうする!」


 ヘセホタを殴り飛ばす偉そうな男。

 ついに手が出たのは子供を思っての行動だった。


「うちは子供の希望を聞いて、教育込みでしか出してねえんだよ!

 そんな人の命を軽く扱うような商売はしてねえんだよ!」


 どうやら人身売買組織である事に間違いはないが、他の劣悪な環境の組織と違い、人を育てて派遣する人材派遣に近いものであるようだ。

 ストックホルム症候群では無いが、説教をしてくる偉そうな男にも一本通った筋のようなものと、優しさを感じるスエオであった。

 スエオもチョロかったようだ。

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