閑話1 破滅のメイド
──キューコン公爵家メイドのミディ──
馬車はスピードを緩めることなく走り続けた。
いつあのオークの気が変わってこちらを襲うのかわからないからだ。
護衛の連中はそう悪いオークじゃなかったんじゃないかと言う。
しかし、あいつらは男だから気軽に考えているのだ。
女性の身からすれば見るだけでおぞましい、ゴキブリ以下の存在である。
決してオークなんかに気を許してはいけないのだ。
「ねえミディ?そんなにオークというのは酷い存在なのか?
助けてくれたのであろう、もう少し態度を柔らかくしても良かったのではないか?」
敬愛なる姫が血迷ったことを言う。
私が仕えるキューコン公爵家の一人娘、オリエ・タル・リリー・キューコン様だ。
オークは醜く下劣で最低の生物であり、私に力があったならこの世のすべてのオークを細切れにしてゴブリンの餌にしてやるというのに。
「なりませんお嬢様、オークというのは酷く下劣で最低の生物であり、生かしておいてはいけない生物なのです。
それを命を救われたから見逃してやっただけのこと。
女性としてオークの肩を持つような人間ですら許されないのです。」
力強く熱弁する私をひきつった笑みで見つめるお嬢様。
どうやらオークの醜悪さのかけらでも伝わったに違いない。
あんなのは生かしておいてはだめなのだ。
お嬢様もぜひ気を付けておいてもらいたい。
「そ、そうか。ミディがそう言うのであれば気を付けることにしよう。」
さすがは賢いお嬢様、私の言うことが伝わったようだ。
「……後で別の者にも聞いておこう。」
お嬢様が何かつぶやいたようだが、御者の声でよく聞こえなかった。
「もうすぐ着きます!王都のホワイトリリーです!」
ああ、やっと王都に帰ってきたようだわ。
あの醜悪なオークと同じ空気を吸ってしまった肺を、王都の花園で癒さなければ。
人外ならあのドリアード様やアルラウネ様達のように、人の役に立たなければただの害獣だ。
まあオークなんて役に立ちようがないのだからしょうがないのかもしれないけど。
王都へ入る順番を待つ行列を横目に、そのまま馬車を走らせる。
公爵家に限らず、身元の確かな貴族に身元確認等は必要ない。
並ぶ必要があるのは、どこから来たのかもわからない得体のしれない平民ばかりなのだから。
酷い時には2日ほどかかる事もあるらしいけど、オリエ様をそんなに待たせるわけがない。
「家紋照合をお願いいたします。」
偽の馬車を作る事も考えられるため、貴族が持つ家紋を型と合わせるチェックはある。
以前魔物を密輸入しようとした貴族が、その馬車は偽物だと言い張ったから出来た法律らしい。
ほんっと、余計な事をしてくれるわ。
そのせいでお嬢様の貴重な時間が毎回3分ほど失われるのだから。
それでも問題なく、平民に比べたら圧倒的な早い時間で中へと入っていく。
ああ疲れた、早く帰ってゆっくりと休みたいわ。
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