-27度 会食のスエオ
スエオは仕事を探していた。
村で手当たり次第に声をかけ、何かやれる事は無いかと探したのだが、いまいち色よい返事がもらえない。
軽い手伝い程度はやったが、これで食っていける程度の食欲では無いのだ。
「仕事して稼がねえと、おで、このままじゃ飢え死にしちまうだーよ。
なんか他に仕事はねーだべか……」
結局、スエオの一日は湯の神としてのお風呂掃除から始まる。
その前に朝ごはん、その前に朝ごはん。大事な事なので二回言いました。
朝ごはんは昨日の利用者が置いていった食べ物だ。
普通の人の二日分はあるのだが、それを朝だけで食べ終えてしまう。
段々と食べる量が増えてきている気がするが、スエオは気にしていなかった。
だって豚だし。
「ちいっと食べ足りねえけど、さっさと掃除するべ。」
お風呂掃除も結局は浄化の魔法(という名の復元魔法)で、雑菌まできれいさっぱり元通りである。
朝と夕方やれば十二分にきれいな温泉を保つ事が出来るため、スエオは昼間に暇を持て余していた。
「どーすっぺかなあ……山さ入ってみるべか?」
温泉があるのは山の麓の村、山側の門のそばだ。
すぐに山に入れる位置にいるスエオは、村内で仕事が無ければ山で食料を探そうと考えた。
ちなみに家は温泉の横に魔法で建てた。
壁だけ土魔法で作り、屋根は板を重ね、ドアだけつけて窓も無い簡素な家である。
と言うか倉庫並みの箱である。
村人には豚小屋と呼ばれ親しまれていた。
……悪意はきっと無いのだろう。
「強い奴の反応は無さそうだべ。
強い魔力持ってると、あのゼロとかいう鳥に食われちまうんだべか?」
今のところ、この前封印したばかりのツンデレ黒ロリ混沌ちゃん──もとい、世界をくらう混沌の反応は無い。
反応が無ければ獲物を見つけられないスエオにとって、普通の狩りは結構ハードルが高いものだった。
「小さいのでもいいから、なんかいねえかなあ……
おっ!あれはウサギでねえべか?」
歩き疲れて、そろそろ戻ろうと思ったその時。
木と木の隙間からウサギがいるのが見えた。
即座に強すぎない土魔法を放ち、一発で仕留めるスエオ。
……体の大部分がえぐれ、食べるところがほとんど無くなっているが、スエオは気にしていなかった。
「どんなぐちゃぐちゃでも解体魔法でいっぱつだべ!」
スエオはワイルドボアの肉と毛皮を手に入れた!
フォレストリザードやゴブリンとは違い、元の体長が40㎝も無かった普通のウサギが、体長1.5mくらいはありそうなワイルドボアを解体したような肉と毛皮になった。
さすがに一番最初に出会った体高1.5mのビッグボアほどにはなっていないが、もはや質量保存の法則に喧嘩を売っているのではないだろうか。
魔法の力って便利だねーで済ませるには異常なレベルである。
「これで今夜は腹いっぱい食えるだーよ。
肉はみんなとわけて食べるとして、毛皮は交換できるべかなぁ……」
体長1.5mのイノシシは体重60㎏くらいになり、そのうち可食部が多めに半分だったとしても30㎏である。
それをすぐにみんなで分けようという考えが出るあたり、クールを目指しているはずが、人情味あふれる近所づきあいにどっぷりはまっていた。
こうして、スエオの日常は狩りと温泉と義理人情で過ぎていくのだった。
まるで二時間サスペンスの舞台になりそうな環境である。
「お!豚神様!そいつ狩ってきたのか?今夜も宴だ宴会だー!」
おそらく第一被害者がいるとすればコイツだろう。
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