-26度 湯煙のスエオ

 スエオの体調に問題が無い事を確認すると、センムはスエオを連れ出した。


「今は村人総出で、あんたが落ちてきた時に出来た温泉を整備しておる所じゃ。」


 センムが案内してくれたのは村から山に入る門のすぐそばだった。

 スエオが落ちてきた時に出来たらしき穴は、氷魔法で尖っていたせいかほぼ垂直に穴が開いていた。

 氷の先端がとがっていたせいか、うまく穴を押し固めながら突っ込んだようで、穴の側面はある程度固められているようだ。

 今はその周囲を軽く掘り、お湯が流れながら冷めるよう水路を作っているようだった。


「急がねえと、この辺が水浸しになってしまうべ。」


 そう言いながら、スエオは魔法を使って水路を一気に掘った。


「おお!魔法で一気に!」

「温泉の神様なのか!?」


 褒められて悪い気はしないスエオである。

 そのまま調子に乗って魔法を使うと、誤って源泉に触れないように覆いを付けたり、浴槽を露天風呂風に作ったりして見せた。

 男女別になっていないのは、ひょっとしたらスエオに残ったオークの本能からかもしれない。


「おお!浴槽まで一気に!豚神様じゃ!」

「湯の神の湯豚様じゃ!」


 怪鳥ギロを、魔力の高い魔物を餌にしていただけで神鳥と呼んでいた村人だ。

 温泉を掘って即座に整備したスエオを、湯豚だの豚神だのと呼び出した。

 その村人に、ますますいい気分になるスエオ。

 いい気分のまま村人に連れられて、急遽始まった宴会に参加する事となった。



 美味い肉に初めて飲む酒。

 そう、スエオは酔っぱらっていた。


「おではあんなしきたりバカバカしいと思うだよ!

 ちょっと緊張しただけで追い出されるなんて理不尽だべ!」


 スエオは自分の身に降りかかった理不尽を愚痴っていたつもりだった。

 しかし、話を聞いていた村人は哀れな目でスエオを見ていた。

 ちなみに子供たちはこの場から避難させられている。


「オークってだけで嫌がらせしてくる人間もいるだ!

 だからおでは、くぅるになって人間も故郷のみんなも驚かせてやるんだべ!」


(((クールは無理じゃないかな……)))


 村人たちの気持ちが一つになった瞬間である。

 そして、村の女性陣まで少しだけスエオに優しくなった。

 初日で前の村を超える好感度を稼ぎ出したスエオであった。




 翌朝、二日酔いの頭を回復魔法で癒し、ついでに昨晩の記憶も飛んだスエオは温泉につかって考えていた。


(ギロはおでじゃなくて、世界をくらう混沌を捕まえようとしたんじゃねえべか?)


 封印をした直後、まだ散って無かった魔力を感じてギロがやってきたのだとしたら。

 そして間違えてスエオを捕まえてしまったのではないか。

 封印に力を使っている今は、そこまでの魔力を使えないから助かっただけではないのか。


(という事は、また世界を食らう混沌の封印が解けたら、ギロがやってくる可能性があるべ。)


 ギロがスエオを連れてきたのも、温泉を掘るためだったなんて事を考えていたとは思えない。

 スエオは、あくまで偶然ここの村人に受け入れられただけだったのである。


(ま、仲良くしてもらえるならそれでいいべ。

 右腕を切り飛ばされても、すぐくっつけて封印すればいいべ。)


 温泉の中で考えをまとめたスエオは、とりあえず今後の食い扶持をどうやって稼ぐのか、村人へ情報収集をする事にしたのだった。


「なあ、この辺でおでにも出来そうな仕事はねえだか?」


 温泉から村に入ってすぐの場所にいた人に話しかけたスエオ。

 こうして、スエオは村の一員としてなじんでいく。

 クールと豚神とどっちがスゴイのかはスエオにはわからない。

 でも、スエオの目標はあくまでクールなのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る