-25度 飛行のスエオ

 スエオは空の散歩を楽しんでいた。

 巨大な怪鳥に両肩を掴まれ、山の方へと向かって飛んでいく。

 流れる雲、天気もいいのだが怪鳥の影になっているので日差しもきつくはない。


「いい眺めだべなあ……」


 のん気にもほどがある。

 おそらくはこの怪鳥の巣まで運ばれるのだろう。

 そこで待っているのは、おそらく雛の餌となる未来ではなかろうか。

 そんな事は露知らず、スエオは山のふもとに村を見つけた。


「おーい、そこの村でおろして欲しいだーよ!」


 怪鳥に向かって叫ぶスエオ。

 しかし、怪鳥は高度を下げる気配すら見せず、そのまま村を通り過ぎようとする。

 当たり前である。怪鳥にとって、スエオは食べ物でしか無いのだから。


「聞こえねえだか?おろして欲しいだーよ!

 おろしてー!おろしてー!

 ……おろせって言ってるだべ!」


 ちょっとだけ怒ったスエオが、両手に氷を出すと怪鳥の両脚に押し当てた。

 冷たさにびっくりした怪鳥が思わず掴んでいた肩を放す。


「ぬぅごあわあああおべぇえぇええぇえぇ!!!」


 ……もちろんスエオは落下していた。

 たるんだ頬の肉は波うち、叫んだ口には強風が吹きこむ。

 と言うか顔の構造上、鼻から入る空気もあって既に拷問状態だ。

 思わずのけぞると、体が地面と垂直になってさらに加速する。


ごぼばばびゃびんびぇびばぶべこのままじゃ死んでしまうべ


 慌てて体を氷で守る。

 イメージしたのは切り飛ばされた時の氷漬けの右腕である。

 体を囲むように氷を出したスエオは、水晶の結晶のような氷の弾丸となって地面へと突き刺さった。


(あ、これ息できねえでねえか……)


 顔の周りまで氷漬けにしてしまい、薄れゆく意識で後悔しながら。



 ※※※※※※※※※※


 スエオが目を覚ますと、ジジイが顔を覗き込んでいた。

 目覚めのジジイとか、相変わらずスエオに女運は無いようである。


「おお!起きなさったか!」


 不自然である。

 今考えてみると、意識を失ったのに解体されているどころか介抱されていた。

 オークのスエオが人に介抱されているのだ。

 別にさっきまでいた村のように顔見知りというわけでもないのに。


「ここはどこだべ?山の麓の村だべか?

 おではどうしてここで寝てたんだべ?」


 スエオはとりあえず状況を確認しようとする。

 オークが人の村にいるのだ、油断は出来ない。


「ああ、あんたは神鳥ギロ様がここまで運んできたんじゃよ。

 ギロ様は普段強力な魔力を持つ魔物を餌にしててな、この辺の安全を守っとる。

 また今回も魔力を感じて捕まえに行ったのかと思ったんじゃが……」


 なんだか少し気まずい顔でスエオを見るジジイ。


「普段獲物を落とした場合、魔力で探してすぐにまた捕まえるんじゃ。

 しかし今回はお前さんを落としても、周りをグルグル回るだけで捕まえようとせん。

 しかもお前さんが落ちた所には深い穴が開いて、温泉が湧いたんじゃよ。

 氷漬けだったお前さんは温泉の湯で溶けて浮いて来た所をここに運び込んだわけじゃ。」


 どうやら助けてもらったようだった。

 ここは社会性のあるオークとして、まずはお礼から言うべきだろう。

 ついでにいつまでもジジイ呼ばわりは申し訳ないので自己紹介だ。


「お、それは助けてくれてどうもありがとうだべ。

 おでの名前は……スエオだべ。」


 活舌が良くなるまで、CSと名乗るのはやめることにしたスエオであった。

 しかし挨拶をする様子を見て納得するようにうなずくジジイ。


「いやいや、別に構わんよ。

 ワシはこの村の村長のセンムじゃ。

 やはりお前さんは悪い存在じゃないようじゃな。

 ギロ様のお裾分けじゃろうかと、そのまま煮豚にするところじゃったわい。」


 笑いながらそういうセンム。しかしスエオにとっては全然笑い事では無かった。

 本気で危機一髪だったようである。

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