‐24度 旅立ちのスエオ

 一息ついたスエオとギアテだったが、これから先が大変である。

 冒険活劇なら、悪を倒せばめでたしめでたし。

 ライトノベルなら、シリアスが終わって日常シーンが入るタイミングでは無いだろうか。


 しかし、今まで散々日常やっといてすぐに戻るはずもなく。

 そもそもこれからの話が半端なく重たいシリアスだった。


「森が三つになっちまったべ……」


 世界をくらう混沌の攻撃は、村の入り口を起点に森をV字のように焼き払ったのだ。

 結果、村のそばの森は三つに分かれてしまっていた。

 明日からの食い扶持が心配なだけのスエオである。


「騎士を死なせてしまった……」


 ギアテは騎士が二人も死んでしまったことを悩んでいた。

 いくら無実の者に斬りかかるような、ゴミ虫のような騎士でも騎士は騎士だ。



「「旅に出るだ!(出ろ!)」」



 二人の気持ちが通じ合った瞬間である。

 スエオは面倒事から逃げ出すために。ギアテは村を護るために。


「いいか、お前は良いオークだ。

 しかし、お前を狙う悪いオークがついでに騎士を殺していった。

 お前は悪いオークから逃げるために村を出た。

 こういう設定でどうだ?」


 意外と悪巧みが出来るギアテである。

 悪いオークって誰だよとか、ツッコミ所は満載だが。


「悪いオークなんていないだ!

 性格悪いのはコボルトの連中だべ!

 すーぐ上から目線で偉そうにするだよ。

 数が多いだけのくせに、数は力だとか言っておでたちをバカにするんだべ!」


 既に話がズレていることにスエオは気付いていない。


「お、おう。

 じゃあコボルトが騎士を殺して、人と仲良くしたいお前を追いかけてるって事で良いか?」


 人との共存を目指すオークと、それを狙うコボルトの図。

 スエオは毛皮を供給していた実績もあり、昔ほど警戒されることは無いかも知れない。


「後はどっちに逃げるかだが……」


 殺した騎士がいる国に残るか、毛皮の噂が広まっていない他国へ逃げるか。

 あまり村から出たことの無いギアテには判断が付かない。

 メリットとデメリットを考えて頭をひねっていると、スエオは落ちていた枝を拾い上げたた。


「枝を投げて、先が向いた方に行くべ。」


 ギアテには無計画にしか見えなかったが、スエオはこれで上手く行った経験がある。

 森から出た分かれ道、棒が倒れた方に行かなければ襲われる馬車にも遭遇せず、木札無しでこの村に来ていたのだ。

 木札を持っていてもあの有様、無ければ今ごろどうなっていた事か……


「まあ、そういうことならそれでいいだろう。」


 スエオの説明に、そういう験担ぎも必要かと納得するギアテ。

 同意を得られたところで、スエオは枝を放り投げると結果を見守った。



 サクッ



「……なあ、これは死ねって事か?」


 木の枝は根本が地面に刺さり、枝先は少し斜めに天を向いていた。


「……そ、そんなはずはないべ。

 おでの占いは先を見通すから間違ってないはずだべ。」


 いつの間にか棒倒しはスエオの中で占いへと格上げされていた。

 ただ倒すのでは無く、上に放り投げたのも格好つけた結果である。


「でもお前、これどこにいけって――」


 その瞬間、突然やって来た巨大な怪鳥がスエオの両肩を足で掴むと、そのまま大空へと飛び立って行った。


「ぬおおおお!

 飛んでる!飛んでるだべよおぉぉぉぉぉ!」


 見る見る内に、遠くへと見えなくなるスエオ。

 向かうのは破壊された森の奥にある山の方である。

 それは刺さった枝の先が指す方向と、ほぼほぼ一致していた。


「……スエオの占いって凄かったんだな。

 元気でなー!」


 驚くところがズレている気もするが、許容量を超える出来事の連続に、ギアテは思考が半ば止まりかけながらスエオに向けて手を振っていた。

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