-23度 封印のスエオ

「うがああぁぁぁ!!!」


 思わず右手を押さえて、後ろへと下がるスエオ。


「くっくっく……殺すぅ!!!」


 一撃で仕留めなかったのは、いたぶるつもりだったからなのか。

 殺すと言いながらも、今度は左腕を狙う女騎士。


「いいぞソフィア!俺にも斬らせろ!」


 女騎士の攻撃を横に躱すが、そこを追撃するように斬りかかってくる男。


(この女騎士はソフィアって名前だったんだべか…)


 そんなどうでも良いことを考えながら死を覚悟したその時。


「ちいっ!遅かったか!」


 強烈な金属音と共に、飛び込んできた存在が男の剣を防いだ。


「ぎ…ギアテさん……」


 同じ人間と敵対する事を厭わず、自分を助けてくれたギアテ。

 スエオは感動していたが、元々村の中で暴れられては困るとスエオを売り飛ばしたのもギアテである。


「ギアテさん……逃げるだよ……」


 左手で逆手に剣を抜くと、ギアテに斬りかかるソフィアの剣を止めるスエオ。


「くっ……ウローの邪魔するやつもお前も殺す!!」


 右腕の血は既に止まっていた。

 スエオの魔法は無意識下でソフィアと戦うための補助を行っていた。

 ついでに(この男ウローって名前だべか)とか考えていた。

 意外と余裕である。


「ここで逃げたら男じゃねえ…よっ!」


 ウローを弾き飛ばすように剣を振り抜くギアテに、合わせるようにソフィアを弾き飛ばすスエオ。


「違うだよ、別にそこのアベックが危ない訳じゃねぇだ。

 を切り飛ばされたのが問題なんだーよ。」


 入れ墨の半分から切り飛ばされた右腕は、周囲を氷に覆われていた。


「な、なんだありゃ?

 あの【寒】って古代文字のせいか?」


 そっちは偶然である……多分。

 そう、スエオの妄想では世界をくらう混沌が封印されている右腕だ。


「なんだこりゃ?

 気持ち悪い魔物は腕まで気持ち悪いんだなあ!」


 スエオの右腕を包んでいる氷を切りつけるウロー。

 そして……封印は解かれた。



「まったく……こんなのに腕切られるとかマジダサいんですけどー。」


 右腕から出て来たのは真っ黒な女の子だった。

 多分ツンデレなんじゃないだろうか。

 そう、これが……



 スエオの瞬間である。



「こんなザコ瞬殺出来ないとかマジダサいんですけどー。

 チョーウケル、マジヤバい。」


 なんか言葉遣いがおかしいのは今更である。

 そもそもスエオからしておかしいので今更ではあるのだが。

 似たもの親子と言うべきだろうか。


「誰がザコだこのクソガ―――」


 瞬間湯沸かし器とか、最近では通じないのではないだろうか。

 瞬時に激怒したウローは、十歳前後くらいに見える少女に容赦なく剣を振った。


 しかし、その瞬間。

 ウローは直線数百メートルほどの森ごと燃えていた。

 ソフィアが我に返るまで、ほんの数秒しか無かったが、その頃にはウローは全て燃え尽きていた。


「いやああああああ!!!

 くっ……よくも殺したなあああああ!!」


 叫んだ勢いも合わせ、混沌に斬りかかるソフィア。

 しかし、その剣は体に触れる前に溶けていき、結果頭から真っ赤な鉄を被る事になった。


「チョーMM、MK5なんですけど!

 鉄ちょっとかかったじゃん!」


 スエオはまだ十三歳なのだが、いったいこの混沌はいつの生まれなんだろうか。

 激おこぷんぷん丸の混沌はソフィアを森ごと消し飛ばした。


 あっけに取られているギアテとは対称的に、スエオは即座に行動を開始していた。

 伊達に何度も封印が解けたときの妄想をしていた訳では無い。

 右手を拾い、即座に魔法でくっつけると、その手のひらを混沌へと向けて封印を試みる。


「え?もう出番終わり?

 チョベリバー、私ヒロイン枠じゃないの――」


 特に抵抗もなく右腕に吸い込まれる混沌。

 後に残ったのは、破壊された森だけだった。

 封印した余韻に浸っているスエオと、めまぐるしい展開について行けないギアテ。


「み、右腕は大丈夫なのか?

 なんだか入れ墨が少し変わってるようだが。」



【極塞】



 こうしてスエオの右腕の封印は強化されたのだった。

 そして、また一歩クールから遠のいた気がする。

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