-16度 浄化のスエオ

 サイコパス状態ではしゃぐスエオが我に返ったのは、フォレストリザードの血が臭い始め虫がよってきた時だった。


「なんだこの臭い、くっせえべ!

 虫もよってくるし、洗わねえとダメみたいだべ……」


 虫を追い払っていると、近寄ってくる魔物の気配でまた右腕がうずく。

 さすがに二匹は持って帰れないと思ったスエオは、とりあえずフォレストリザードを担ぐと走って逃げ出した。

 担いだまま走れるほど、力に余裕があることに本人は気付いていない。


「ここまで来れば大丈夫だべ。」


 もうしばらく行けば森が終わるところまでやって来た。

 ここは他のパーティーが休憩を取ったりするために作られた空間であり、スエオはここで先に浄化と解体を済ませようと考えた。

 さすがにスエオでも、血まみれで魔物を引き連れて街に戻る、なんて事をしない良識はあったよう――


「くっせえと格好良くねえべ。

 ここで浄化魔法使ってから帰るベ。」


 やっぱりスエオに良識など無かった。


 スエオが自分の衣服や装備に浄化魔法をかけると新品同様に変わる。

 血と臭いが取れたところでフォレストリザードを解体し始めるが、また血で汚れることを考えてはいなかった。

 スエオはドジッ子属性が欲しいのだろうか。


 そしてそのドジッ子は、誰かに教わることもなく解体出来るはずが無かった。

 片耳と、胸に埋まる魔石をほじくり出すだけでいいゴブリンと違い、フォレストリザードは皮が高いのだ。

 繰り返そう。肉も多少はお金になるが、重要なのはウロコにおおわれた皮なのだ。


 スエオが頑張って解体することしばし。

 そこにはズタズタの皮と、振り回したせいで同じくズタズタの、内臓と糞尿まみれの肉があった。

 これ残酷描写に入るんじゃなかろうかと心配である。

 素直に性描写も残酷描写もタグ付ければ良かったと後悔してももう遅い。

 グチャグチャになってしまったフォレストリザードの皮と肉は戻らないのである。


「ふふん!おでの浄化魔法はこれくらいちょちょいのちょいだべ!」


 そうしてスエオが浄化魔法を唱えると、そこには綺麗なの肉と毛皮が……


「あで?なんか違う気がするべ?

 これワイルドボアの肉と毛皮でねえか?」


 スエオの浄化魔法はである。

 水は綺麗な水に、衣服や装備は買った当時の状態に。

 スエオの妄想どおり、大半はに作り替えられる。


 スエオの産まれた村では、ワイルドボアを度々狩っていた。

 解体された毛皮や肉も見たことがあった。

 しかし、フォレストリザードは解体された皮や肉どころか、実物を見るのも初めてだった。

 その結果、スエオが綺麗に解体した事があるの記憶、ワイルドボアの肉と毛皮になってしまったのだ。

 これをきっかけに、スエオの作り替えという非常識な魔法の力が世に知られ――


「まあいいか、ワイルドボアさ倒したことにするべ。」


 ――なかった。


 ちなみにこの毛皮。

 先日狩人ギルドに預けた毛皮と、毛の一本の誤差すらない同じ物である。

 スエオは満腹スープ75杯が確定した事に喜び、深く考えない事にした。


 スエオは肉を毛皮で包むと、それを背負って街へと戻るのだった。

 その足取りは軽い。ついでに頭も軽い。

 そしてスエオの異常さは隠されたまま、秘伝の味が再現されて広まっていく。

 そう、肉はもちろんスエオのお袋の味になっていたのだった。

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