-15度 金欠のスエオ

 スエオが村で狩りを始めて四日目の朝。

 毎日狩りを続けていたものの、その間に倒した魔物はゴブリン二匹、収入にして銀貨二枚だ。

 朝晩と満腹スープを三杯ずつ食べ続けたスエオの残金は銅貨八枚分である。


「これじゃあ朝の三杯目が食えねえでねえか!」


 狩りが赤字な事に今ごろ気付いたスエオは、今後は森の採取物を食べようと考える。

 どうせ毒まみれとか言われて買い取って貰えないのだ。

 自分で食べれば良いじゃないかと。


 スエオは狩人ギルドで採取物を買い取って貰えないことを、自分がオークだから差別されていると勘違いしていた。

 実際に毒まみれで、食べても平気なスエオが異常なだけなのだが。


 幸い宿泊所牢屋には困っていないため、最低限寝ることは出来る。

 しかし、手持ちの現金が無くなりつつある以上、満腹スープはしばらく我慢しなければ、とスエオは思った。

 もう残金はゼロである。




「今日はいつもより長く森にいると思うべ。」


 顔見知り程度にはなれたと思われる門番に、右手を上げて挨拶をしながら話しかける。

 赤い布確認の動作が、そのまま挨拶になってしまったようだ。


「おう、程々にな。」


 同じように右手を上げる門番に見送られながら、森へと向かうスエオ。

 いつもなら木の実や草を採取しながら進むため、そこまで奥には入っていない。

 今日の採取は食べ物だけにし、食べながら進むことにした。

 満腹スープ一杯分は大きいのである。


 そうこうしているうちに、いつもなら引き返すあたりを超えるが、スエオはそのまま食べ物を探して進んでいく。


「む?なんか右手がうずくべ。」


 何かの気配を感じ取り、周囲を警戒するスエオ。

 何も封印されていない右手がうずく場合、関節リュウマチや糖尿病、手根管症候群あたりを疑うべきかも知れない。

 しかし、妄想が魔法により現実となるスエオは、右手のうずきによって索敵をする事が可能になっていた。


 封印されているのに、敵の接近を教えてくれるなんて。

 世界をくらう混沌とやらはツンデレなのだろうか。

『て、敵に気を付けないと世界を食べちゃうんだからね!』

 まさに混沌かも知れない。主に頭が。


 そんなスエオに実際に近付く魔物がいた。

 トカゲの手足を太くし、巨大化させたような姿のフォレストリザードである。

 午前中は大抵木の上で日なたぼっこしており、体が温まると下を通る生物に飛びかかって獲物を捕らえる習性がある。


 スエオが警戒して止まったまさにその時、フォレストリザードが頭上から飛びかかる!


 前方を警戒していたスエオの構えた剣が、タイミング良くフォレストリザードの胸を貫く!!!



「ふっ……おでのこの素晴らしい戦闘センスが怖いべ。」


 戦闘時間一秒未満、ただの偶然であった。

 右側に立てて構えた剣に突き刺さった形なので、スエオは返り血を右半身に浴びている。


「こ、これはこれで格好良くねえだか?」


 半身が赤く染まったスエオは、後で悪臭を放つ事に気付かず上機嫌であった。

 剣に刺さったままのフォレストリザードを振り回し、血を浴びて喜ぶその姿は、もはや厨二病どころかサイコパスである。


 帰ってからギアテに散々怒られるところまでがお約束となりつつあるスエオであったが、まだ森の中。

 誰もスエオの奇行を止める者はいなかった。

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