-12度 グルメのスエオ
装備を整えて店を出たスエオは、昨日の昼から何も食べていない事を思い出した。
強烈な腹の音で。
≪グルルォォォォォォォ≫
その音をスエオが吠えたのだと勘違いした村人たちは、一目散にその場から逃げ出した。
逃げそこなっているのは屋台を出していた店主だけである。
みんな何か急用があったのかなと勘違いしているスエオは、丁度いいと行列が消えたその屋台に近づき売っている物を見る。
鉄板では肉と野菜が炒められており、その隣には寸胴鍋でスープが温められていた。
「すまねえだが、一人分売ってくれねえだか?」
隠れるようにうずくまっていた店主は慌てて跳ね起きると、急いで料理を用意しだした。
ボウルのような器に入っているのは蒸した麦のようだ。
その上に肉野菜炒めを乗せ、さらにスープをぶっかけた。
「む、麦の満腹スープでございます。」
既に料理に釘付けになっているスエオは、おびえている店主の様子が視界に入っていない。
ひそかにスエオの口から垂れているヨダレが別の意味で恐怖をあおっているのだろう。
ちなみにオークは人肉を食べる事は無い。
しかしそれを知っていても恐ろしいスエオの笑顔に、店主はこらえるので精いっぱいだった。
店主は恐怖に震える手を抑えて、スープをこぼさない事に精神力を総動員していた。
「ありがとうだべ!」
差し出された器とスプーンを受け取ると、がっつくように食べる。
一見独身男性の雑な料理のようにも思える一品だが、スープの具は煮崩れて消えるほど溶け出しており、別で炒められた肉と野菜が足りない食感やボリューム感を補っていた。
底に沈む麦はそのスープや具のうまみを優しく受け止め、満腹感をプラスする事に貢献していた。
「う゛んめえ゛えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
そして今度は腹ではなく正真正銘スエオの
店主は吹き飛ばされそうになる意識を必死につなぎ止め、何とかこらえた。
殺気が混ざっておらず、歓喜の叫びだったからこそである。
すぐさまお代わりを頼むスエオに、店主は意識をもうろうとさせながらも手際よく次を作っていく。
スエオが十杯ほど食べ終えた所で我に返ると、最後の金貨を取り出し不安そうに聞いてみた。
「いっぱい食っちまったけど、これで足りるだか?」
店主は声も出ないようで壊れたように何度もうなずくと、スエオから金貨を受け取った。
そしてお釣りとして半金貨と銀貨一枚ずつ返す。
どうやら一杯銅貨四枚だったようだ。
ニコニコと笑顔でお礼を言うスエオを見て、店主も少しばかり冷静さを取り戻す。
相変わらず卑猥な笑顔は別の意味で恐ろしいのだが、見た目と違って意外と悪いオークではないのではないかと思う店主であった。
普通のワイルドボアを倒すと、毛皮がおよそ金貨一枚。
肉も含めれば二枚になるとして、この屋台で五十杯食べる事が出来る計算である。
珍しいと言ってた方なら毛皮だけで最低金貨三枚、七十五杯だ。
スエオはやる気を出して、意気揚々とワイルドボアを狩りに行くことにした。
直後、腹の音と感動の咆哮で駆けつけた自警団に槍を向けられている事に気づき、そのやる気は露と消えたスエオであった。
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