-11度 装備更新のスエオ

「結局いくらになるんだべ?」


 朝目覚めてすぐ爺さんに連れられ、毛皮談義を聞かされそうになったスエオは話を即ぶった切った。

 ギアテはもういない。

 昨日爺さんが語り出したあたりでスエオを前に出し、後ずさるようにしてギルドから出て行った。

 いつものことで慣れているのだろう。


「ワシにも値段は決めかねるわい。

 この特異種と思われるワイルドボアの毛皮はまた同じものが手に入るのかの?」


 スエオにとっては森に入ればまた手に入るであろうただの毛皮である。

 しかし、魔法で作り替えられた事で特異な品質になっている事に二人とも気づいていない。


「多分また森に入れば手に入ると思うべ。

 なんならまた狩ってくるべ。」


 スエオがそう言うと、爺さんは少し思い悩んだ。

 スエオがまた手に入るだろうと言ってはいるが、この毛皮は普通のワイルドボアの毛皮ではない。

 どう考えても性質が違っており、特殊個体の毛皮だと勘違いしたからだ。

 逆にいうのであれば、特殊個体が沢山いると思われる森に派兵をする必要があるのではないか。


「とりあえず前金として金貨三枚を出そう。

 後は王都へ運んでオークションにかけ、必要経費と手数料を2割引いて残りを支払うとしよう。

 また手に入れたら、そのたびに同じ方法で買い取るつもりじゃがかまわんか?」


 スエオにとっては思っていたより高く売れるというだけで、損は無い。

 また狩ってくればいいだけの話である。

 二つ返事で了承すると、そのまま狩人ギルドへの登録を進められる。

 スエオは人の社会の一員になれた気がして、喜んでギルド登録を承諾した。


 ギルドにはランクと言うものは無い。

 得手不得手で得意不得意があるため、一律の評価基準を決めるのは危険だと認識されているからである。

 事実、スエオはある程度の魔物は倒せるものの、採取の方は村で使っていた薬草やハーブ以外の知識が無い。

 スエオが手っ取り早くお金を稼ぐのであれば、魔物を狩り続けるのが一番なのだ。


 爺さんからお金をもらい、とりあえず村の中で装備を整えようとギルドから出ると、やはり村人は遠巻きに見ているだけである。

 ギアテがいない分、警戒度は昨日より若干高いぐらいだ。

 しかしお金を手に入れてホクホクのスエオは気にせず買い物へと向かう。

 まずはこの生成りの服をどうにかしたい自称おしゃれさんのスエオであった。


 少し村の中を歩くと、雑貨屋のようなお店を見つけた。

 まだ小さな村なので、武器屋と防具屋、雑貨屋などが一店舗にまとまっているようだった。

 そこそこの大きさはあるが、それだけの品ぞろえをするとなるとスペースが足りないらしく、店内は少しばかりゴチャゴチャしていた。

 香辛料や生活雑貨を買いに来たご婦人が目を皿のようにしておびえ飛びのき、壁際で震えている姿を見るとあまり長居は出来ないだろう。

 そうスエオが少し寂し気に考えると、早めに装備と道具をそろえる事にした。


 しかし今まで腰みのだけで生活していたスエオである。

 武器も防具もどれを選べばいいのかわからないのだ。

 しょうがなくおびえる店員に申し訳なさそうに話しかけると、適当に装備を見繕ってもらう事にした。


「すまねえだ、おで、装備とか何もわがんねえから適当に見繕って欲しいだよ。

 予算は金貨二枚ぐらいで、近場に狩りに行くための物一式が欲しいだ。」


 スエオがそう伝えると、店員は顔を引きつらせながらうなずき、スエオに合う装備を見繕いだした。

 武器は一本だけあった、片手半剣だ。

 普通の人にとっては片手で扱うには長すぎるそれも、スエオにとっては重さ長さ共にちょうどいい代物だった。

 鎧の方はサイズが合うものが無く、鉄の胸当てやすね当てを、紐を調節する事で装備する。

 中の服は貫頭衣と巻き布から上下ともに7分丈の服に変わった。

 これは、身長が低く体が太いドワーフ向けを無理やり着た結果である。

 靴はブーツが入らなかったため、サンダルのような紐を巻き付けるタイプの物を購入した。

 森に入るのにサンダルなんて危険かもしれないが、今まで裸足だったので今更である。

 小手はどうしてもサイズが合う物が無かった為、小型の盾を両手に括り付ける事を進められた。

 その際に腕力で鉄製の小盾を腕に合わせるように捻じ曲げたスエオを見て、店主の営業スマイルががれ落ちたのは余談である。


 他にも薬や保存食、道具袋などを買いそろえると予算を少しばかりオーバーしてしまった。

 仕方なく金貨三枚を出そうとするスエオに、「勉強させていただきます。」と金貨二枚でいいと言う店主。

 スエオはいい人だなあとのん気に思っていたのだが、店主からすると二枚超えたじゃないかと怒られる前に先手を打った形である。

 オーバーしたのも銀貨一枚足らずであり、十分に利益は出ているのだ。


 この村で使われているお金は、このリリーランド王国で流通しているものであり、半銅貨・銅貨・半銀貨・銀貨・半金貨・金貨の六種類である。

 半硬貨は普通の硬貨の半額であり、銅貨から金貨はそれぞれ価値が十倍になっていく。

 つまり金貨一枚=半金貨二枚=銀貨十枚=半銀貨二十枚=銅貨百枚=半銅貨二百枚となる。

 また、金貨何百枚となる取引には証券や宝石などが代わりに使われる事も多いとの事。


 スエオはそこまで教えてくれた親切な店員さんに感謝をするが、店員は身の保証のためにやっていたという事にスエオは気づいていない。


 村人から怯えられない日は来るのだろうか。

 と言うかクールになるという目標はどこへ行ったのだろうか。

 スエオの先はまだ見えない。

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