-6度 旅路のスエオ
スエオは鼻歌なんか歌っちゃったりして、ルンルン気分で歩いていた。
最初は走り続けていたが、森へと続く道を見て少し落ち込んだりもした。
しかし貰った木札がよっぽど嬉しかったのか、今でもニコニコと笑顔だ。
森から出た時は伸びをするのもクールじゃないなとか言ってたのは何だったのだろうか。
タイトル詐欺のような気もしてきたが、【くぅるに生きてぇだ。】であって、【クールに生きる】じゃないからセーフである。
この先にあるであろう村に期待を寄せ、スエオは歩き続けた。
日も暮れてきた頃、スエオのテンションはすっかりと元に戻っていた。
歩き続けても同じ道が続いており、いまだに平原の先に村らしきものは見えない。
しょうがないので、道の横で夜営をする準備を始めた。
毛皮に包んでいた猪肉を焼こうとするが、薪が無い事に気づく。
森では湿った倒木や魔法で破壊した木片を、これまた魔法で強引に火をつけて使っていた。
しかし平原に木は見えず、森で集めて持ち運ぶという考えも無かった。
まず荷物を入れる袋もなく、猪の毛皮で肉と毒入りの木の実を包んでいるだけである。
スエオの頭では、わざわざ森で拾った薪を持ってきたりするはずが無かった。
「……こんな事ならさっきの丸太を持ってくれば良かっただーよ。」
そう思いながら何気なく目に入った草に、右手に封じられし世界を飲み込む混沌とやらの力を分け与えてみる。
するとどうだろう、草は燃え尽きる事なくろうそくのように燃え続けた。
これに火をつけても燃えないよなと思いつつやった行動が、まさかの付与魔法であった。
「お?これなら料理も出来るんでねえべか?」
スエオは調子に乗って付与を直径20㎝ぐらいの広さに広げた。
そんなホイホイと封印されているものを分け与えていいのかと思うかもしれないが、元々封印なんてされていないので関係無かった。
これで永遠に燃え続ける野外コンロの誕生である。
のちにこの炎を使うために、ここで夜営をする人が増えた。
最終的には聖火の街と呼ばれるほどに大きくなるのだが、今のスエオにはまったく関係無かった。
さっそく燃える草を使い、猪肉の残りを焼くスエオ。
生肉をなめしてもいない皮で包んで、日中ずっと背負って運び続けていたのだが、肉が劣化している様子はない。
これはスエオが魔法で作り替えた物であり、常に新鮮な解体後の状態を維持していたからであろう。
母親の秘伝の味、スエオは焼いただけだと思っている味に少しホームシックになりつつもスエオの夕食は終わった。
ついでにうまそうな匂いにやってきた野生の動物系の魔物もいたのだが、常に垂れ流され続ける魔力に本能的な何かを感じ取り、決して近寄ってくる事は無かった。
孤独のなか、毛皮を寝具代わりにして寝るスエオ。
見張りとか警戒とか何もしていないはずなのだが、まるで家のような安心感の中に包まれていた。
と言うか、実際にそんな外敵を寄せ付けない結界魔法になっていた。
空を見上げて寝転びながら、月に手を伸ばしていつもの妄想を始める。
寝ながら出来るので夜営も悪くないなと思ったスエオだが、これはクールじゃないと思い直して立ち上がり両手を上げた。
だからそれはクールじゃなくて厨二病である。
丸太を軽々持ち上げる身体強化魔法、不要な詠唱をわざわざ考えて使う攻撃魔法、ただの雑草に永遠の火をともす付与魔法、そして虫レベルでも外敵を寄せ付けない結界魔法。
クールへの道は相変わらず迷子のままなのだが、スエオは着実に非常識な魔法の腕を磨き続けていた。
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