-5度 笑顔のスエオ

「お、おではエロい連中とは違うだよ!

 か、変わり者だから村から追い出されただ!」


 両手を上げて戦う意思が無い事を示すスエオ。

 今後の文化的な生活がかかっているので必死である。


「そう言って油断させて女をさらう気だろう!

 脳みそが下半身直結のオークなど信じられるか!騙されないからな!」


 護衛たちは剣を構えたまま、ジリジリとスエオを取り囲むように並んだ。


「お、おでは成人の儀で役に立たながったから放逐されただ!

 くぅるにかっこ良くなるために旅を始めただよ!」


 もはや元から欠片も無かったクールさが、再起不能になった涙目のスエオ。

 そのあまりの必死さと、欠片も無いクールさを求める姿に男たちは皆同情してしまった。

 しかし、女性の方はそれをまともに信用する事が出来なかった。

 オークとは女性を襲う魔物であり、それ以外のイメージなど全く無いのだ。


「助けてもらったのであろう?なぜ顔を出してはいかんのだ?」


 豪華な馬車の中から、幼い少女の声が聞こえる。

 どうやら馬車の中から出してもらえないようだ。

 当たり前だろう、いたいけな少女の視界に卑猥な魔物トップ3に入る存在を映すわけが無い。

 ちなみに残りの二種類はゴブリンとスライムである。

 ちなみにこの世界のゴブリンは想像通りだが、スライムは別に服だけ溶かしたりなんてしない。

 骨まで溶かされて完全ヌードになってしまう、普通に凶悪な存在である。


「お嬢様!目が汚れてしまいます!おやめください!」


 一応は命の恩人に向かって酷い言い様である。

 完全に警戒しているメイドは置いといて、護衛たちは話し合った。

 悪い魔物ではないのではないか、しかし街に連れていくと問題が、従魔にすればいいのではないか、卑猥なイメージしかつかないじゃないか。

 話し合いは紛糾した。恩を感じてはいても、誰も身元保証をしたいと思わなかったからだ。

 正直、この世界でオークを従魔にするような人はいない。

 魔獣使いの才能を持ちながら娼館で働いているような奇特な存在がいれば話は別なのだが。


「とりあえず、この札を身元の証明として渡すから、人里に行きたいのであれば逆方向の村に行ってくれ。」


 そう言って木の札を渡してくる護衛の隊長っぽい人。

 あくまで兵士の保証であり、誰か個人の保証というわけでは無いようだ。

 しかしスエオにとっては初めて認められた証のようで、素直に受け取ると喜びに打ち震えた。


「ありがとうごぜえますだ!これ持って村に入れないか試してみますだ!」


 とびっきりの笑顔、しかしオークの顔なので卑猥にしか見えない笑顔。

 クールさなど迷子のまま、素直に喜ぶスエオにちょっぴり罪悪感を抱く護衛達。


「お礼にこの丸太片付けていくだよ!」


 そう言うと目にもとまらぬ速さで積んである丸太に駆け寄り、軽々と持ち上げると道の横に並べて積んでいく。

 ほんの数分の間に道をふさいでいた十数本の丸太が片付けられる。


「んじゃおではあっちさ行くだ!本当にありがとなー!」


 スキップでもしそうな軽い足取りで、馬のような速さで駆けていくスエオ。

 護衛やメイドが我に返った時には、既にスエオの姿は見えなくなっていた。


「オークってあんなに力あったっけ?」

「足の速さも馬並みだったっけ?」

「あの魔法も凄かったし、ちょっともったいない事したんじゃなかろうか。」


 ちょっぴりの罪悪感と後悔を胸に、スエオが走り去った方を見送る護衛たち。

 クールどころか、ちょっぴり無邪気でかわいいという感想を抱いてしまったのだった。

 ……オークなのに。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る