-4度 助っ人のスエオ
「おっ?ついに森をぬけるだか?」
薄暗い森の道の先には明るい平原が広がっていた。
スエオは森を抜け、平原へと一歩踏み出すと両手を上げて背中をそらし、伸びをした。
しかし、はたと何かに気付くと伸びをやめる。
「おっと、これはくぅるじゃねぇだな。」
無駄なあがきだった。
スエオは手を下ろすと、有りもしない前髪をかき上げるような仕草をする。
「ふっ……おでの未来と同じように開けているべ。」
クールどころか、格好つけるのにすら失敗している。
B級映画のラストのような台詞は、一体どこから引っ張ってきたのか謎である。
クールにはほど遠いその行いも、本人的には十分クールだったらしい。
満足したようにうなずくと、道の先へと歩き出した。
「道さ続いてるって事は、この先に街さあるって事だべ。
おで頭良いなあ。」
もはや何も言うまい。
直後にT字路にたどり着き、結局棒を倒して決めたのは秘密である。
スエオが棒の倒れた方向へ進むと、盗賊に襲われている豪華な馬車があった。
物語なら鉄板、お約束、テンプレだと時には馬鹿にすらされる定番ネタである。
スエオはどう助ければ、この定番ネタのような状況をクールに格好つけられるか考える。
馬鹿の考え休むに似たり。
結局何も考えつかないので、護衛らしき騎士のような存在がやられる前に助けることにする。
やられてからではかわいそうだと考えたからだが、ピンチを救う方がカッコイイとかは考えていない。
そこは性根が優しいスエオであった。
道の先には囲むように丸太が倒れており、馬車を止めて待ち伏せしていたらしい。
丸太の後ろには弓を持った盗賊が三人ほどいるようだ。
前衛として八人の盗賊が五人の騎士鎧を着た護衛を取り囲んでおり、さらに四人の盗賊が後ろから回り込もうとしていた。
護衛は馬車を囲む六角形の後ろを欠いたような隊形で牽制を続けており、後ろはメイドが鍋を持って護っているだけだ。
回り込もうとする盗賊を警戒するメイドの目に、のんきな顔で歩いてくるスエオの姿が映る。
即座に彼女は絶望した。
盗賊に襲われている現状に、オークに襲われる選択肢が追加されたところで何も変わらない。
むしろ悪化したのだ。
「氷の茨よ、悪を縛り封ずる力さなれ!
あいしくるろーず!」
オークが何やら訳の分からない事を叫ぶ。
目をつぶり死を覚悟しながらも、メイドは馬車を護るように立ち続けた。
しかしいつまで経っても何も起こらず、おそるおそる目を開けてみると盗賊が氷のツタで拘束されていた。
茨と言ったのにただのツタなのは、スエオが茨の実物を見たことが無いからである。
唖然とする護衛とメイド。
しかし護衛の隊長らしき男性が即座に立ち直ると、他の護衛に命じて盗賊にとどめを刺していった。
せっかく捕まえたのに次々殺されていく盗賊。
連れて行く余裕がないのであれば、現地処分は当然の事かも知れない。
「だ、大丈夫だったべか?」
大人しくさせたはずなのに、次々と処分される盗賊を見て動揺するスエオ。
既にクールの欠片もない。
「ち、近付くな!!」
鍋を持ったメイドが立ちはだかる。
直後に盗賊を片付け終えた護衛たちが、メイドを護るように構えた。
「……あで?」
スエオは意味がわからなかった。
盗賊を一網打尽にし、カッコイイ!お礼を!という流れの予定であったはずが、助けた護衛たちに剣を向けられている。
護衛たちからすれば盗賊の次はオーク、単に相手が変わっただけである。
スエオがおかしいだけで、普通のオークは女性を襲うことしか考えていない。
護衛は、女を狙うために他の男を先に始末したオークマジシャンとしか見ていなかったのだ。
「お、おう、これはくぅるな展開とは違う気がするだよ。」
スエオがクールな存在として。
いや、それ以前に理性ある者として認められる日は来るのだろうか。
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