-3度 狩人のスエオ
「おっ?あの実は確か食えたはずだべ。」
腹を空かせて一晩過ごしたスエオは、朝日が出るとすぐに歩き出した。
道沿いには食べる物が残っておらず、森の中へと進んでいく。
スエオが見つけたのは食用の果実……によく似た毒を含む実だった。
「この実ってこげな味だったっぺ?」
味に違和感を感じつつも、空腹には勝てず食べ続けるスエオ。
三つほど食べて、さらにいくつかの実を収穫すると、元の道へと戻る。
「こっつに行けば道に近いっぺ。」
ただ戻るのではなく、進んでいた道の先に出るようにショートカットしようとした。
結果、盗賊のねぐらを迂回したことに本人は気付いていない。
意外と運が良いスエオであった。
しばらく歩き道に出ると、そのまま街へと向かい歩いていく。
さっき食べた毒の実は、食用だという思い込みが魔力に作用し、その毒を浄化していた。
とことん非常識な豚である。
道を歩いていると、猪の魔物が現れた。
その体躯は普通の猪よりも二回りは大きく、四つ足にもかかわらず高さが150cm程の巨大さだ。
牙は真っ直ぐ前へ向かい伸びており、額にある角も合わせてトリケラトプスのようである。
そのまま突進されたら、たやすく相手の肉体を突き破るだろう。
「おっ、ワイルドボアだべ。倒して昼飯にするべ。」
共食いではないのだろうかと思った人もいるかもしれない。
しかし野生の猪と豚、もといオークは猿と人以上にかけ離れており、忌避感はあまりない。
……というより、そこまで深く考えないと言った方が正しいだろう。
突進してきたワイルドボアに向かい、地面から伸びるように氷の刃を生やす。
突進の勢いもあり、そのまま頭に突き刺さった氷は、砕けることなくそのまま後頭部を突き破った。
「うっ……グロいのは苦手だべ……」
いくら剣と魔法のファンタジー世界でも、村でほぼ引きこもっていた厨二病の豚には耐性の無い光景であった。
まあ、次の瞬間には食欲に上書きされて、嬉々として解体を始めたのだが。
もちろん解体なんてしたことの無いスエオは、傷つけてはいけない臓器を傷つけ、膀胱も腸もズタズタにしては肉を汚していた。
もちろん血抜きもやっていない。
「なんだか汚くなっちまっただべなぁ……
浄化魔法で綺麗に出来ないっぺか?」
魔を払う浄化魔法では無い。
というか、そもそも浄化魔法にそんな効果は無い。
スエオは洗浄魔法と浄化魔法をごっちゃにしていた。
そもそも部屋の掃除もした事が無い豚に、そんなイメージあるわけが無かった。
イメージしたのは、綺麗に解体された猪肉。
昔、村の狩人が狩ってきて綺麗に処理した物だ。
ズタズタで汚物まみれだった猪肉は、綺麗な猪肉と、上手にはいだ毛皮に作り替えられた。
「ふっ……魔法の天才である、おでにかかればこんなもんだべ!」
もはや天才で済む話では無い。
本人の気付かないまま、魔法が異常なレベルへと進化していた。
「さて、早速昼にこれ焼いて食うべ。」
血も消えた不自然な地面に疑問を持つことなく、その場にたき火を用意する。
このたき火すら魔法無しでは維持できない、湿った薪が使われていた。
そのままたき火で猪肉を焼いて食べたスエオは、とある事を思う。
イメージ通り作り替えられた猪肉が、味付きになっていた事。
それが自分の母親の秘伝の味付けだった事。
「かーちゃんの料理って焼いただけだったんだべ……」
全てに気付かず、母親に手抜き料理人のレッテルを貼る親不孝豚であった。
クールへの道のりは、既に迷子である。
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