-2度 魔法使いのスエオ

 スエオは途方に暮れていた。

 成人まで魔法を使ってはいけないという村の制限は既に無い。

 村を放逐されてしまったスエオに、村のルールなど守る意味はない。


 しかし魔法を使った事が無く、特に訓練も受けていない者がまともに扱えるのだろうか。

 答えはいなだろう。

 魔力を操れず、イメージ力が足りない


 気分でやっていた月光浴は、月の光を体に吸収するイメージでやっていた。

 しかも集める場所は右腕の封印である。

 を吸収し、という形で活用していたのである。

 右腕に封印されるべきものの有無は問題ではなく、それが魔力を操り力へと変換する練習へとなっていた。


 次に躓きやすいポイントとして、イメージ力の問題がある。

 実際に目で見た物はともかく、完全に想像だけでは高威力の魔法などイメージしきれないのである。

 しかしスエオはいい意味で異常だった。

 右腕の封印が消え、が解き放たれてしまうと、村や周りの森どころか、世界を業火に包んでしまうのだ。

 そんな封印されしモノに打ち勝つ氷魔法を放つ自分、それがいつものスエオの妄想だった。


 全てが魔法を使うための訓練として役に立っていたのだ。



「あげなしきたりに捕らわれた村なんてこっつからお断りだ!」


 村を放逐された直後、怒りのままに道を進んでいたスエオ。

 少し歩くと薄暗い森の中に入ってしまう。

 薄暗い森のなか、一人で歩いていると、徐々に徐々に不安と孤独に侵食されていく。

 とりあえずどこか近くの街へと向かおうとしたが、桁違いの妄想力MPで戦闘訓練をした方がいいと思いつく。

 暗い気分を切り替える事にもなるかもしれない。

 村のそばに戻るのは恥ずかしいと思い、そのまま道を進んで村から離れ、適当な広場を探して魔法を試すことにした。


「お?ここは魔法さ使うのに丁度よさそうだば」


 そこは本来であれば旅人が夜営をするために設けられた道の脇の広場だった。

 朝から歩き続け、日が傾いて来た頃にようやく見つけた広場だが、梅干し三個分のスエオの頭には魔法の試し打ちしか残っていなかった。

 華麗に氷魔法を連続で放つ。

 そんな自分を妄想して、


「ふっ……おでにかかればこれくらいの魔法、なんて事は無いだ。」


 前後の道は薄暗い森の中。

 唯一身を休められる広場は氷柱つららのように尖った氷の森へと変わっていた。

 魔法を放つのに夢中になっていたスエオは、ただでさえ傾いていた日に気づく事なく、気が済んだ時にはもうとっぷりと日が暮れていた。


 そして、後先考えずに魔法を放った挙句、途方に暮れる豚が一匹誕生した。




「いやあ、やってみるもんだべ。おでは自分の才能が怖いだよ。」


 途方に暮れる豚だったスエオは、無事にキャンプをしていた。

 右腕の封印を少し弱めるイメージをしただけで、ありもしない右腕に封じられし世界を食らう混沌から熱波が溢れ出たのだ。

 もちろん実際に封印されているわけではなく、右腕にいると思っているスエオのイメージが混沌の力の余波という氷を溶かしてしまっただけでなく、地面まで乾燥させてしまったのだ。


 混沌の熱に氷魔法負けてるじゃんって突っ込んではいけない。

 全ては妄想の世界なのだから。


 氷を溶かした時と同じように炎を出し、無事薪に火をつけたスエオがとある事に気付くのは、もう少しだけ先の事だった。



 そう、食べるものが無いという事に。


「……腹減っただーよ。」


 やはりクールにはまだまだ遠いようである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る