第13話 伊都は無関心だった己を恥じるだけなのです
するりと舞世から降りて、居住まいを正して……しばらく。
「――さて、兎にも角にも、まずは妹さんを見つけなければなりませんが……はいそうですかと見付けられたのであれば、苦労はしません」
舞香の涙も止まり、お茶で一息入れた後。最初よりもずっとマシな顔つきになった舞香と、やる気を見せている真人たちを見やった伊都は……仕切り直しを兼ねて、そう話を切り出した。
「基本的には魂魄……つまりは魂ですが、そう自由気ままに動き回れるものではありません。おそらくは、どこかで動けなくなっているはずです」
「え、だ、大丈夫なのか?」
思わず目を瞬かせる真人に、「それは、実際に会ってみないと分かりません」伊都はそう返した。
「肉体より離れた魂というのは、言うなれば殻のない卵のようなもの。常識的に考えれば、とおに成仏してしまうか、あるいは悪霊という存在に変わり果ててしまう……ところですが」
ちらりと、伊都の視線が眠っている舞世の肉体へと向いた。
「こちらにその影響が出ていない以上、悪霊には成っていない。成仏していたなら、この身体にある魂も引っ張られて成仏しているはず。そのどちらにも至っていないあたり、推測ではありますが……どこかに身を隠している可能性が高い」
「そ、それじゃあ、それを見つけ出せば――」
「ですが、それが難しいのです。魂が離れてすぐであれば私にも追跡出来たのですが、一年も前になると痕跡が消えてしまっている。あまりに遠くへは行けないはずですが、この街全部をしらみつぶしに探すとなると……」
伊都の説明は過不足なく事実である。
何故なら、肉体を持たない霊魂というのは物理的な障害が通用しない。つまり、鍵の掛かった部屋だろうが密閉された空間だろうが、自由自在に出入りすることが出来る。
大きさも、関係ない。掌サイズの箱だろうと、25メートルプールの広さであろうと、そこに隠れようと思えば隠れる事が出来る。いや、場合によっては……他の物体に憑依する形で隠れる場合もある。
それ故に、伊都は言葉を濁したのだ。
さすがの半人半神とはいえ、街の何処かに隠れている霊魂一つを、手掛かり一つ無しで見つけ出すなんて、至難の技だ。
よほど強力な『力』を持っていたのであれば話は別だが、特殊な体質ではあったものの、只の少女を見つけ出すなんて……と。
「……もしかしたら、舞世ちゃんはラッキーと今も一緒にいる……とか?」
その時、華子の何気ない呟きが室内に響いた。
ハッと、その場にいる誰もが華子へと振り返る。「――え、いや、根拠はないよ!?」途端、華子は驚いて手を振って否定したが……伊都は、すぐさま考える。
「……妹さんは、飼っていた犬の名を呼んで飛び出して行った……ですよね?」
顎に指を当てて考えていた伊都は、そう舞香に尋ねる。「ええ、そうよ」どことなく興奮し始めている舞香に、「……有りえない話ではありません」伊都は可能性を述べた。
「生前、その犬が好きだった場所とか、遊んでいた場所などは覚えていますか?」
「ええ、覚えているわ!」
「ならば、順々に視て行きましょう。一つ一つ、潰してゆくしかありません」
そう伊都が言い終えた直後、「――滝川!」舞香が声を張り上げた。「――大至急、ご用意致します!」ほぼ、間をおかずに一礼した滝川が、部屋の外へと飛び出して行った。
……さて、と。
移動の足が有ることを見やった伊都は、改めて舞世の身を包んでいるタオルカバーを外す。
今度は何をするのかと集まる視線の中で、伊都は……歯で、指先を軽く噛み切ると、垂れた赤い滴を舞世の鳩尾の上に塗った。
――次いで、伊都は『力』を込めた。
行うのは、守護の術だ。今度の術は、これまでとは違う。悪霊どころか動物霊一匹、肉球一つ入り込めないぐらいの強固な護りの術を舞世の身体に掛ける。
……それは、幻想的な光景であった。何も持っていない伊都の掌より突如放たれた光が、舞世の身体を怪しく照らす。
ギョッと目を見開く舞香たちを尻目に、光は水気に触れた紙のように舞世の中へと浸透してゆき……淡い光が足の指先まで届くに合わせて、掌から放たれる光も消えた。
……続いて、伊都は着物の懐より……数珠を取り出す。それに『力』を込めてから、ぶちりと糸を引き千切る。散らばった珠が舞世の身体の上を転がった……のを見て、合掌する。
「『我が御霊の光を帯びた某、我が御霊の命に従い、我が御霊の勅命が下るまでその器をこの場に留めよ』」
呪文と共に、転がった珠が動きを止め、舞世の身体の上で静止した。何をしたのかといえば、舞世の身体を霊的な『力』で封じ込めたのだ。
最初の護りによって、身体の中にある魂が不意に動き出すのは止めた。次の数珠は、万が一行方不明になっている方の魂から影響を肩代わりする護りだ。
どちらに何かがあっても、互いへ影響を及ばせない……それを見越した上での防止策であった。
「念のため、滝川さんには見守ってもらいます。とりあえず、これで妹さんが暴れ出したり、今すぐどうこうということはないでしょうが…………何ですか?」
ベッドより降りて居住まいを正した伊都に集まる、視線。どうしたのかと首を傾げる伊都に、全員が顔を見合わせ……恐る恐るといった様子で、舞香が唇を開いた。
「……本当に今更なんだけど、伊都ちゃんって私が今まで会って来た霊能力者と根本から違うわね。何というか、そういう目に見える形で何かをしたのは伊都ちゃんが初めてよ」
伊都がやったみたいに掌から光を出すような事はなかったが、実際、舞香がこれまで会ってきた霊能力者(自称、他称、問わず)の何人かは、『本物の霊能力者』だと思える人物ではあった。
だが、今しがた伊都が行った超常現象のような光景を行って見せたのは、一度としてない。己が見た限りでは、伊都以外にはいなかったと……舞香は言った。
「はあ……そうなのですか?」
対して、伊都の感想はそれだけであった。
「それほど凄い事をしたわけではないのですが……」
しかし、謙遜でも何でもなく、伊都の基準ではそう大したことをしたつもりはなかった。だって、舞世の身体に護りの術を掛けただけだから。
――むしろ、これぐらい霊能力者を名乗るのであれば出来て当然でしょ。
そう言わんばかりの伊都の態度に、この場で唯一『一般的な霊能力者(という言い方も何だが)』を知っている舞香は……何とも言えない顔をした。
「……ちなみに、伊都ちゃんの中での『凄い事』って、具体的になに?」
凄い事……顎に指を当てて考えた伊都は、ああ、と手を叩いた。
「
「…………そう」
しばしの間、舞香(他の人達も)は沈黙した後。
「……本当の、本当に……最初から伊都ちゃんに相談するべきだったわね」
そう、絞り出すような感想を零したのであった。
「は、はあ、それに関して言えば、私も遠回りをせずまっすぐ行けば良かったと同感ではありますが……あの、どうして急に落ち込むのですか?」
何で驚かれているのか分からない伊都は、首を傾げるしかなかった。
……。
……。
…………そうしてから、セバスの運転で館を出発した伊都たちは、生前のラッキーの散歩コースを一から順に辿ってゆくことになった。
舞香の話では、生前のラッキーは家の近場を決まったルートで散歩しており、途中にある公園で一休みしてから、ぐるりと回り込むようにして家へと戻る……というのが一連の流れらしい。
時々はセバスの運転する車で遠出し、そこで遊び回ることもあったらしいが……全体的な頻度としては、少ない。
伊都からも『無くはないが、可能性としても低い』という結論が出たことで、まずはその散歩コースを辿るということになったわけだ。
……とはいえ、だ。
時刻が時刻だし、舞世の幽霊を目視することが出来るのは姉の舞香と、『力』を持つ伊都だけ。運転しているセバスもそうだが、同行している真人と華子も、その姿を確認することは出来ない。
なので、まず車で散歩コースに近しいルート(車では通れない場所もあるらしいので)を巡回しながら、車内にて伊都が気配を探ることにした。
要は、舞香たちの家を中心にして円を描くように移動し続け、管制塔のレーダーのように張り巡らせた伊都の探知能力によって、舞世の霊魂を探すというわけだ。
伊都の霊的な探知能力の前では、多少なりコースを外れたところで何の問題もない。むしろ、下手に時間を掛けるよりも効率を考えて探した方が良いという、伊都からの提案でそうなった。
それらしい気配を見つけたら、伊都の術で一時的に真人と華子の両名を『見える状態』にして、その場所をしらみつぶしに探す。見つからなかったら再び移動して、それらしい気配を探して巡回を続ける。
何回かそれを終えたら、円を一回り縮めて再びぐるりと巡回し、また、気配を見付けたら『見える状態』にして……というのが、今回の捜査の手順となった。
……。
……。
…………そうして、車が走り出してから早3時間。
時刻は既に深夜となり、日付も変わっている。しかし、未だ伊都たちは舞世の霊魂を見つけられずにいた。
ラジオ一つ点いていない(そういう空気でもなかった)車の中は、静かであった。高級車に分類されるが故に、車内の静穏性は抜群の一言。エンジンの駆動音すら、耳を済ませなければ聞こえないほどだ。
……が、しかし。
車内に限るのであれば、静かな理由はソレだけではなかった。もちろん、舞香たちが雑談をする気持ちになれないのも理由の一つだが、車内が静かな最大の理由は……伊都だ。
――ソファーに胡坐を掻いている伊都の雰囲気が、あまりに常軌を逸していたから。それが、物音一つさせてはならない空気を車内にもたらしていた。
具体的には、胡坐を掻く伊都の身体から淡い光が放たれていた。ライトを持っているとかそういのではなく、文字通り肌そのものが薄く発光しているのだ。
そのうえ、よくよく見れば黒髪がふわふわと逆立っている。静電気のようにパリッと逆立っているのではなく、真下から淡い風を受けて舞い上がるような……まあ、そんな感じだ。
はっきり言って、『幻想的』を通り過ぎて『超常的』な光景である。
ぶっちゃけてしまえば、事前に『そういった事が起きても不思議でも何でもなさそうなお人』であると知っていなければ、声の一つも挙げていたところだが……兎にも角にも、だ。
「……おかしいですね、一向にそれらしい気配が見つかりません」
舞世の幽霊を探ることに全力を注いでいた伊都だが……調査を始めて、3時間強。一夜で見つからないのは考慮していたが、掠りすらしない現状に……違和感を抱き始めていた。
「一年も前の事だから、見つかり難いということ?」
「いえ、そうではありません。隠れているにしても、一年間も身動き一つせずに留まっているのはありえない。もしそうなっていたら、その影響が身体の方に出ているはず……が、あの身体にはそれが無かった」
尋ねてきた舞香に、伊都はそう答えた。
「時間はそう長くはないでしょうが、必ず動き回っている時間がある。お供に犬がいるのであれば、尚更移動を繰り返しているはずです」
「……もしかして、ラッキーの散歩をしているってこと?」
「魂というのは、ある意味では心に素直な状態です。頻度こそ少なくとも、生前と同じくソレを行っているはず……なのに、それがない」
それは半神半人としての経験から来る伊都の推論ではあったが、事実としても限りなく正解であった。
肉体から離れた魂というのは、ある意味では肉体の鎖……すなわち、理性から解き放たれている状態でもある。
それは動物的な本能を差すだけではない。普段は様々な要因によって抑えられている願望……つまり、やりたいと思った事を後先考えずにやろうとするのだ。
――犬の散歩とて、そうだ。
本能的という言い方も何だが、幽霊となった舞世は自我を失ったわけではない。自身が危険な状態に陥っているのを、ちゃんと理解しているはずだ。
それでもなお肉体に戻らないのは、『亡くなったラッキーともっと一緒にいたい』という欲求に後先考えずに従っているからに、他ならない。
――だからこそ。
痕跡の欠片すら見つけられないことが、伊都にとっては不思議であった。己を万能だとは思っていない伊都だが、相応の自信というものを伊都は持っていたからだ。
「こうも手応えが無いのであれば仕方ありません。こうなれば妹さんではなく、犬の『らっきー』を探しましょう」
そこで、伊都は一旦方針を変えることにした。
「舞香さん、その『らっきー』が好んでいた場所や物の中で、自宅以外にコレはというのはありますか?」
姉妹故に似たような波長を持っていると思って探していたが、相手が犬となると話が変わる。
参考となる大本が無い以上、伊都の優れた探知能力もその実力を発揮することは出来ないからだ。
それ故に、ここからは舞香たちの中にある記憶が全ての鍵を握るのだが……舞香の顔色が曇ったのを見て、伊都は嫌な予感を覚えた。
いったい、どうしたのか?
そう尋ねてみれば、答えは……思い当たる節が無い、というものであった。
どういう事なのかと質問を続ければ、答えは明快。舞香が(真人もそうだ)知るラッキーの好んでいた場所は全て、散歩コースの中にあったというのだ。
それはつまり、ラッキーの痕跡すら残っていないということ。文字通り、真っ暗闇の中を転がっている真珠を拾い上げるに等しい状況。
(……まずい)
この調子だと、散歩コースから離れて……捜索範囲を街全体に広げなければならない。
(やはり、こういう日は事が上手く運ばない……)
これには、さすがの伊都の表情も強張った。
何故なら、今日無事であるからといって、明日無事である保証はない。護りの術を掛けたとはいえ、絶対ではない。
こうして話している間にも、重大な何かが起こって取り返しが付かない……何ら、不思議なことではない。
舞香たちには言わなかったが、あえて言うなら一年間も無事であったこと自体が奇跡なのだ。
その奇跡が都合良く明日も明後日も続いてくれるなんて、伊都は微塵も考えてはいなかった……と。
――唐突に、スマフォの着信音が鳴った。
誰の着信音か……それは、舞香の強張った顔が全てを説明していた。
というのも、こんな時間に舞香へと連絡するのは妹の舞世を見ている滝川ぐらいであり、わざわざ連絡をするということは……舞世の身に、何かが起こったということだからだ。
「――もしもし、滝川!? 何があったの!?」
『大変です、お嬢様! 舞世様が突然、苦しみ出したのです!』
ハンズフリーとなったスマフォから響いた滝川の悲鳴に、舞香たちの視線が――一斉に、伊都へと向けられた。
……これに話せば良いのかと視線で尋ねれば、激しく頷かれた。
なので、伊都は勝手が分からないまま「……もしもし、伊都です。聞こえていますか?」声を掛けて見れば、『滝川です! 聞こえております!』はっきりと返事が返ってきた。
「苦しんでいるというのは、どんな苦しみ方なのですか? 動こうとしてもがいているのですか? それとも、泡を吹いたりしているのですか?」
『いえ、そうではなく……こう、怯えているみたいなのです! 首を左右に振って、仰け反ろうとしているのです!』
「怯えて……滝川さん、妹さんの身体の上にある珠に、変化はありますか?」
『――先ほど、一つ割れました! あ、今、二つ目も――どうしたら良いでしょうか!?』
この短時間で二つ……その言葉に、伊都の目じりが僅かに吊り上った。
「……今のあなたに出来ることは何もありません。とにかく、妹さんが暴れ出すようなら押さえてください。私たちは、このまま捜査を続行します」
そう言い終えると、スマフォから顔を話した。一拍遅れて、「聞こえたわね、それじゃあ舞世をお願い」舞香はそう告げて通話ボタンを切った――その、直後。
「――非常に危険な状態です。行方不明になっている妹さんの魂に、重大な問題が起こっているとみて、間違いありません」
簡潔に、伊都は事実を述べた。サッと、顔色を一気に青ざめた舞香に、「落ち着きなさい、貴女が焦ったところで何も変わりません」伊都は努めて平静な態度を示した。
「ある程度は珠を通じて、そちら側の方も身代わりになってくれます。要は、それまでに見つけ出せば良いのです」
「で、でも――」
「思い出しなさい。どんな些細な事でも、それが糸口になる。『らっきー』の気持ちになって、思い出してみるのです」
伊都の言葉に、舞香たちは頭に手を当てて思い出を探り始める……と、車が路肩に停車する。見れば、運転していたセバスも同じく記憶を手繰り寄せているようであった。
――それが、正しい。
タイムリミットが迫っている以上、闇雲に動き回っているよりもそちらの方がまだ可能性はある。そして、その手掛かりを見つけるのは伊都ではなく、舞香たちにしか出来ない事だ。
そうして見守っていると、張り詰めた緊張感の最中、ぽつりぽつりと舞香たちから『候補』が上がる。
だが、すぐに否定される。上げられた候補のどれもが散歩コースの中にある物だったり、家にある物だったり、あまりに遠すぎる(県を二つぐらい跨ぐ)場所だったりしたからだ。
いくら幽霊とはいえ、見知らぬ場所へと向かう可能性は低い。
そこに思い出の何かがあるならまだ分かるが、舞世はまだ小学生だ。ラッキーを連れて(あるいは、連れられて)そこまで行くのも、考え難い。
……まあ、可能性としてはあり得ない話ではない。だが、兎にも角にも時間がない。
護りの術によって舞世の魂が守られているとはいえ、限度はある。珠が壊れて尽きる前に、舞世の魂を見つけ出さなければならないが……珠の消耗速度から考えると、その猶予も長くはない。
「――何かありませんか? 何でも良いのです。今はもう無くなっている場所でも物でも、何でもいい。『らっきー』が向かいそうな場所は、ありませんか?」
とにかく、何でもいい。心当たりのある物でも場所でもあれば……そう思って、伊都からも再度話を振った。
「……鳥かご」
それが……良かったのかもしれない。全員の視線を再び一身に浴びた華子は、「――そうだよ、鳥かごだよ!」大きく目を見開いて叫んだ。
「ほら、舞香、忘れたの!? 舞世ちゃんが小さい時に、ラッキーのお家だって言っていた、あの鳥かご! 身体のサイズが全然合わなくて、結局一度も使わなかったやつ!」
その言葉に、誰よりもハッと目を見開いた舞香が振り返る。「……鳥かご?」小首を傾げる伊都に、「――舞世がまだ、小学校に入る前の事よ」舞香は頬を紅潮させながら説明した。
「ある時突然、舞世が『ラッキーが住める鳥かごが欲しい』って言い出したの。でも、家には鳥なんて飼っていないし、ラッキーが入るなら大型犬用じゃないとって話になったんだけど、舞世はソレが可愛いからソレじゃないと駄目って聞かなくて……」
「仕方なく買って、結局は入らなかった、と……それで?」
「ラッキーは賢くて優しい子だったから、舞世の無茶を聞いて何度も入ろうとはしたの。結局は、尻尾を入れるぐらいしか出来なくて何の意味もなかったけど」
「……けど?」
「それでも、舞世はそれでも凄く喜んで、ラッキーもそれを見て喜んで……小学校に入ってしばらくしてから見かけなくなったけど、一時期は毎日のように写真を取っては私たちに自慢をしに来たの――ねえ、どう思う?」
ふむ、と。伊都は思考を巡らせ……頷いた。可能性としては、悪くない。
「その鳥かごは今、何処に?」
「学校の部室! 棚の上に置いてある! 捨てるのも嫌だったし、舞世が見ると思い出しちゃうからってことで、部屋に置いてあるわ!」
「――え、部室?」
部室って、あの色々と置いて――あっ。
(――まさか、アレ?)
その瞬間、脳裏を過った数日前の記憶に……伊都は内心にて頭を抱えた。
居た……そうだ、居たのだ。閉じこもっているのではっきりとは分からなかったが、助けを求めていたから、伊都は特に考えることなく『力』を分け与えた。
少しばかり気配が変だと思ってはいたが、悪い性質は感じなかった。あの部屋の雰囲気や、直前に感じた負の念、部屋の掃除など、そちらに気を取られてすっかり忘れていたが……まさか、アレがそうだったのか。
……ふ、不覚。よもや、最初の最初に遭遇していたとは!
だが、嘆いている暇はない。
兎にも角にもこれでラッキーの居場所は分かった。忸怩たる思いではあったが、伊都はすぐに学校へ向かうよう舞香に指示をした。
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