第7話 伊都は迷うばかりなのです




 ――どうか、御召し物だけでも。



 そう提案してくる崎守一家を振り切った伊都ではあったが、せめて車でお送りすると提案してくるのを断り続ける事、幾しばらく。


 結局、根負けしてしまった伊都は、セバスの運転するリムジンにて送られるがまま、自宅となる不知火荘へと向かっていた。


 行きの時とは違い、車内にいるのは運転手を務めるセバス(結局、名前は不明のままだ)と、客人である伊都の両名だけ。


 行きの時と同じく、好きな物を自由に飲食して良い(菓子も、常備されているらしい)と促されたが、伊都は手を伸ばすことはせず、静かな車内から外の景色を眺めていた。



 ……その横顔は、けして良いものではなかった。



 傍目から見る限りでは無表情にしか見えないが、不機嫌というわけではない。怒りの色が、その横顔からは感じられないからだ。


 けれども、マシかといえば、そうでもない。その身より醸し出される雰囲気は冷たく、あまり話しかけないでくれ……という内心を、露わにしていた。


 ……たかが車で送り迎えするだけなのに、そこまで嫌がるものなのだろうか。


 仮に、この場に第三者がいれば、伊都の、ある意味意固地とも取れなくもないその態度を、疑問に思う者もいるだろう。



 しかし――それは少々誤解である。



 伊都が嫌がったのは、車の送迎ではない。そういった親切を(それが、伊都に『楽』をもたらすモノであったとしても)を押し付けられる行為そのものが嫌なのだ。


 言い換えれば、伊都にとっては己が成す行為全てが修行であり、それを妨げる行為(例え、結果的にはそうでなくとも)の全てが苦痛なのだ。


 朝起きて修行、昼ご飯を食べて修行、晩御飯を食べて修行という日々を送ってきた、弊害なのだろう。


 車の送り迎えという、何ら珍しいわけでもない、この行為。これだけでも、伊都にとって『己は今、怠けている』という感覚に陥ってしまい、落ち着かないのであった。


 ……見方を変えれば病的なマゾヒストと取れなくもない。しかし、実質はワーカーホリックみたいなものであり、伊都自身はそのことをまだ自覚していないのであった。






 ……。


 ……。


 …………さて、話を戻そう。


 人通りどころか、走っている車すら見かけなくなった街中を、伊都を乗せたリムジンが静かに走り続けている。


 元々、コンビニに出かけたのが、日が暮れた後であった。


 そこに、屋敷への移動時間、その屋敷での一連の騒動、説得を振り切るのに掛かった時間が積み重なって……気付けば、時刻はもう深夜に差し掛かろうという辺りになっていた。


 昼間であれば、注目の一つや二つは集まりそうなものだ。何せ、リムジンだもの……けれども、伊都を乗せたリムジンは何の注目を集めることもなく、不知火荘へと向かっている。


 ある意味、深夜であるからこそ、なのだろう。時折信号に捕まって足を止めることはあるが、全体的に見ればスムーズに車は走っていた。



「……ふう」



 静まり返った車内の空気を、伊都のため息が震わせる。ちらりと視線を向ければ、運転席のセバスとバックミラー越しに目が合った。



(……我ながら、大人げない)



 反射的に目を逸らしたセバスに苦笑しつつ、伊都はそう己を叱咤する。


 車に乗ってからずっと黙っていた伊都だが、もう、伊都の中に不機嫌の色は無かった。機嫌が良くなったわけではないが、胸中にあった苛立ちは綺麗さっぱり無くなっていた。


 元々、伊都は怒りをそう長く引きずる性質ではない。


 それは半神半人としての性質ではなく、『古都葉伊都』としての性質だ。爆発的な怒りを見せることはあるが、過ぎてしまえば全ては過去でしかなくなるのが、伊都の『怒り』なのであった。



「――余計なお世話になってしまいました」



 そうして、おそらくはタイミングを見計らっていたのだろう。これまでとは違い、ボケッとした様子で外を眺めている最中、セバスの声が伊都の耳に届いた。


 見やれば、バックミラー越しにセバスが頭を軽く下げて(あくまで、運転の邪魔にならない程度に)いた。言葉の主語はなかったが、言わんとしていることが伊都には分かった。



「あなたが……頭を下げることはありません。そもそも、私が偏屈過ぎるのも悪いのですから」

「それでも、です」

「……それでも、ですか?」

「それでも、です」

「……それなら、もうこの話は終いにしましょう」



 断言されて、伊都はそういうものかと納得した。「――ありがとうございます」とりあえず、ハンドルを握る手を震わせて今にも感涙しそうなセバスを宥めつつ、伊都は……やれやれ、と改めて外を見やった。


 ……夜の闇に包まれた街並みは、昼間とは打って変わって人の気配がない。


 まあ、昼間でも多いということはけしてないのだが、とにかく人の気配が途絶えた暗闇は、同じ場所なのに、異なる場所へと迷い込んでしまったかのような気分にさせた。



(……腑に、落ちませんね)



 その、何とも言えない空気が……今の伊都にとっては何とも心地よく。思考を巡らせるには具合の良い肌触りをしていた。


 自然と、伊都の視線が外の景色から、己が手元……懐より取り出した札の破片へと向けられる。それは、舞世の額に張られていた札に間違いなく、『力』はほぼ失われている。


 ……『力』を持つ者が見れば、何らかの要因で効力を失った事で破れてしまったのかと思うところである。


 事実、伊都も札を手に取るまではそう思っていた。だが、今は違う。札を実際に手に取った伊都の考えは、全く別であった。


 それは、札に施した術が解けた事で敗れたのだとか、霊的存在との衝突によって破れたのだとか、そういうものでもない。


 伊都の脳裏を過った答えは、ただ一つ。それは、『何者かの手によって意図的に破り捨てられた』、というものであった。



 ――理由は、ある。それは、破片に残された『力』の残影。



 例えるなら御札は、水を吸い込んだスポンジのようなものだ。込められた『力』を使えば使う程、スポンジに沁み込んだ水が絞り出されてゆく。


 そして、最後の一滴まで絞り出してカラカラに乾いた状態……それが、いわゆる『力が失われた』という状態なのだ。


 しかし、あの場にて伊都が拾った破片は、そうではなかった。


 幾らか失われてはいるものの、破片にはまだ『力』が残っていた。例えるなら、水を吸ったスポンジをハサミで切り分けたような感じが近しい。


 効力こそ失われているものの、『力』の大部分は破片に残されている。手に取っただけでも分かるぐらいなのだ……こういう推理とは無縁であった伊都ですら、それが意図的に剥がされたものだということは推測出来た。



 ――だが、推測出来たのはそこまでであった。何故なら、伊都には全く思いつかなかったのだ。



 危険な状況を生み出してまでこの札を破いた理由もそうだが、何よりも……その事でどのような利が生まれるのか……それが、伊都には全く分からなかった。



「セバスさん。運転中に申し訳ないのですが、幾つか聞いても宜しいですか?」

「――構いませんよ。私に答えられることで宜しければ、幾らでも」

「余所者なうえに、踏み込んだことも聞きますが、それでも?」

「もちろん、構いません。私が知り得ていることなら全てお答え致します」



 だから、気付けば伊都はセバスに尋ねていた。


 初めて自発的に声を掛けられたことに軽く驚いているセバスの視線に思わず、早まったかな、とも思ったが、毒を食らわば皿までと覚悟を決めた伊都は、さて、と思考を始める。


 そうして、いざ尋ねるに当たって、まず伊都が思ったのは……何から尋ねて良いものか……である。


 騒動の真っただ中にいた時は気にしていなかったが、思い返してみれば今に至るまで、不可解な点が多々あった。


 こうして、場の空気が入れ替わったことが切っ掛けになったのだろう。考えれば考える程次々にそれらが脳裏を過り、伊都はしばし視線と言葉をさ迷わせた。



「まず、セバスさんたちは、アレが霊的な存在による現象であると考えているのですか?」



 ……たっぷり、2分程。


 セバスの視線を感じていた伊都は、まずその点から尋ねることにした。アレ、という曖昧な言い方ではあったが、セバスは過不足なく、伊都の言わんとしていることを理解し、答えてくれた。



「はい、最初の頃は私共々、半信半疑というやつでした。お恥ずかしながら、幽霊なんていうものには昔から信じておらず……舞世様の件が無ければ、今も鼻で嗤っておりました」

「そう思うのは当然です、己を責める必要はありません」



 ……そう言っていただけると、恐縮です。そう、セバスは小さく呟いた。



「今はもう、私共はアレが心霊現象であることを誰一人疑ってはおりません。ですが、真人(まこと)様だけは、私共のように何から何まで……というわけではないようです」

「……真人様?」



 首を傾げる伊都に、「――ああ、これは失敬。まだ、ご紹介されておりませんでしたか」セバスは言葉を続けた。



「客室に案内された際、背が高く体格の良い青年にお茶をご用意されませんでしたか?」

「……ああ、あの人」

「本名は崎守真人(さきもり・まこと)。崎守家の御長男であります」

「へえ、あの人が……そういうのは、信じないお人なのですか?」

「いえ、そういうわけではありません。ただ、何と言いましょうか……真人様は、どうも私共とは異なる目線で舞世様を見ているようでして」

「異なる目線?」

「心霊現象であるというのは、理解していらっしゃるようです。ですが、どうも……申し訳ありません、無知ゆえに上手く言葉では説明出来ません」

「いえ、そんな事はありません。それだけでも十分です」



 とりあえずは、何故かは知らぬが睨みつけてくる謎の美青年という情報の上に、伊都は崎守家の長男という文字と、何らかの疑念を抱いている……という情報を付け足した。


 ……そのうえで、「……長男、ですか」はてな、と伊都は首を傾げた。


 長男……つまり、舞香たちの家族ということだ。風貌からみて、舞香よりも年上なのは確実だろう。


 しかし、そうなると……何故、立場を隠して給仕役を務めていたのだろうか。


 趣味……にしては、楽しんでいるというようには見えなかった。冷遇されているにしては、あのご両親との間に不穏な空気は流れていなかった。


 と、なれば……催促の意味を込めて、セバスを見やる。



「……申し訳ありません。その事に関しては、少々複雑な事情がございまして……私の口からお答えするわけには……」



 すると、察したセバスはそう答えた。まあ、そうだろうなあと思っていた伊都は、「そう、それならいい」それ以上を尋ねようとはしなかった。



(どうせ、血が繋がっていないとか、そういうところでしょう)



 というか、尋ねるまでもなく、伊都は既にその『複雑な事情』とやらに大体の当たりを付けていた。


 どうしてそう思ったのかといえば、単にあのご両親と青年とでは、根本的な『霊質』が違い過ぎたからだ。



 ――霊質とは、言うなれば霊的なDNAのようなものだ。



 肉体のDNAとは違い、霊質は様々な要因によって変化することはあるが、だいたいの場合、子は両親の霊質をある程度は(もちろん、全く引き継がれないこともある)引き継ぎ、死ぬまで変化することはない。


 機械のようにほぼ100%の精度はないが、確立としては非常に高い。なので、親子の血縁関係の有無を始めとして、分かる人が見れば分かってしまうのであった。



「……先ほど私たちが体験したアレは、いったい何時頃から始まったことなのですか?」

「正確な日数までは分かりかねますが、おおよそ1年ほど前からだと思います」

「それ以前から、似たようなことは起こっていたのですか?」

「いえ、全く。少なくとも、私が知る限りではそのような話はありませんでした」

「なるほど……では、問題が発生してからこれまで、セバスさんたちはどのような対応を取って来たのですか?」

「対応……と、いいますかは、私にも分かりません。仕事柄、私も屋敷内を出入りは致しますが、そういった部分は旦那様を始めとした皆様方が取り決めたことですので、詳しくは……」

「構いません。セバスさん、あなたが知り得ていることだけで結構です」



 ふむ……セバスは顎に手を当て、思い出す。



「……あくまで人伝ではありますが、屋敷の者たちが言うには、日本全国より霊能力者と呼ばれる者たちを呼び寄せたそうです。老若男女を問わず、とにかく片っ端から集めたと聞いております……ですが」

「ですが……失敗した、と?」

「はい、様々な者たちがあの手この手で除霊を行いました。ですが、此度のように除霊しても除霊してもすぐに次から次へと幽霊がやってくるようでして、最終的には霊能力者の方が白旗を上げてしまうらしいのです」



 続けて、当時の事を思い出しているのだろう。「中には、随分と尽くしてくれた方もいたのですが……」幾分か気落ちした様子で俯くセバスを見て……伊都は内心、首を傾げた。



 ――どういうことだろうか。



 何とも奇妙な状態だと、伊都は思った。


 というのも、だ。まず、『失敗した』という点だ。全員が本物ではなく、『力』もピンキリだとしても、全員が偽物ということはないだろう。



 すなわち、その内の幾らかは本物で、除霊を行えるだけの者がいたはずだ。


 当然、除霊しただけで問題が解決しないということにも、気付いたはずだ。



 車の中で、あの屋敷で、伊都が不可解に思ったあの現象を、これまでの者たちも体感したはずだ……だからこそ、伊都は不思議に思った。


 何故なら、舞世が寝ていたあの部屋に何の対策も……いや、正確には、『効力を失った札による結界』が成されている(札自体は隠してあるようだが)だけで、実質的には何も成されていない状態のままであったからだ。


 ……札の効力が失われているというだけなら、まだ説明は付く。


 大方、定期的に札を張り変えるのを怠ったか、『力』が失われていることに気付かず使い続けているかのどちらかだろう。『力』を持たないからこそ気付けない、霊能あるあるの一つだ。


 けれども、あの家に限ってならば、それが放置され続けている事が腑に落ちない。


 世事や常識に疎い伊都の目から見ても、あの家は資産家だと断言出来る。そんな者たちが同じ札を使い続け、効果が現れなくなったと感じ始めても、それを放置しておくだろうか?



 ……可能性としては、低いと思う。



 ほぼ見ず知らずの伊都にすら、言い値で金銭を支払おうとしたぐらいに娘を溺愛しているのだ。少しでもアレの頻度が早まっていると察すれば、それこそ霊能力者の一人や二人を新たに呼び出して、対応させているはずだ。


 さすがに……全員が伊都に匹敵する程の『力』と知識を有していることはないだろう。加えて、初見で状態を察することが出来る者はもっと数少ないだろう。


 しかし、何度も霊に憑りつかれてしまうという話を聞けば、誰であっても考えるはずだ……舞世が、幽霊に憑りつかれやすい『霊媒体質』である可能性を。


 だが――あの部屋には、その対策が成されていなかった。


 その可能性を考慮した痕跡があるにせよ、その先があの部屋にはなかった。言ってしまえば、分かっていて放置している……そう、伊都には思え……ああ、なるほど。



(――そう、そうです。やることが、あまりにチグハグしすぎている)



 違和感の正体はコレかと、一つ、伊都は頷いた。


 思えば、最初から不自然な点が多過ぎる。


 一年も前から此度のような症状が出ているのに、御守一つ持たせていない。効果の有無に関わらず、全く携帯させないのはどういうことなのだろうか。


 それに、車内での騒動も変だ。


 舞香は効力の失われた札を使うばかりで、あの中には一枚として使用できる札はなかった。ただの深読みか、あるいは……と、そこまで考えた時であった。



 ――車が、ゆるやかに減速を始め、止まった。



 ハッと、思考の坩堝から意識を浮上させた伊都が窓の外を見やれば、見覚えのある建物……不知火荘の正面入り口があった。到着までそう掛からないとは思っていたが、予想よりも早く着いたようだ。



「……ご到着ですが、どう致しましょうか?」



 運転席より振り返ったセバスが、そう尋ねてきた。暗に言わんとしていることを察した伊都は、「――送っていただき、ありがとうございます」軽くセバスへと頭を下げて車を降り……ふと、振り返った。



「最後に一つだけ、いいでしょうか?」

「はい、何なりと」



 運転席から降りようとするセバスを制し、伊都は言葉を続けた。



「……崎守さんの妹さんを取り押さえる際に使った札などは普段、誰が管理しているのか知っておられますか?」



 その質問は、予想外だったのだろう。「札の管理、ですか?」これまでと打って変わって目を白黒させたセバスは、はて、とこめかみに指を当てて考え始め……おそらくですが、と前置きをした。



「舞香お嬢様だと思います」

「崎守さんが?」

「はい、金銭に関しては旦那様が出していると思いますが、札の用意等は全てお嬢様が行っていると小耳に挟んだ覚えが……すみません、お役に立てず……」

「いえ、それだけでも十分です」



 そういうと、伊都は車より一歩離れた。それを見て、セバスは軽く伊都に頭を下げると、緩やかに車を発進させ……交差点を曲がって見えなくなった。


 辛うじて聞こえていた車の走行音も聞こえなくなったのを確認した伊都は、そのまま黙って暗闇の向こうを見つめ続け……沈黙の中で、思った。



 ――深入りするべきか、ここで身を引くべきか。



 今、己の前に二つの道があることを、伊都は自覚する。身を引けば、待っているのは平穏だ。波紋一つない水面が如き日常が続くのだろう。


 それが良いか悪いかは別として、崎守舞香とは顔を知っているという程度の仲だから、そういう形で落ち着くだろうと伊都は思った。


 対して、ここで深入りすれば……他所様の事情に首を突っ込むのだ。


 不穏とまでは言い過ぎかもしれないが、平穏には終わらないだろう。不可解な点も多いし……そう、伊都は思う。



(……放っておくべき、ところなんでしょうけれども)



 でもなあ、と。踵を翻して事実へと向かいながら、同時に伊都は思う。


 仮に、舞香たちが悪人であったなら、伊都は迷わなかった。自業自得だと思い、傍観者として見つめるだけに留めていた。


 けれども、舞香たちは悪人ではない。感情を読むまでもなく、あの家の空気……あの家に集う者たちには、紛れもなく『愛』が有った。



 ――だからこそ、伊都は迷うのだ。



 伊都は、自分自身をお人好しとは思っていない。しかし、涼しい顔で見捨ててやれるほど、心を冷徹に出来ない。


 神の御許にて御付をしていたせいか、どうしても『力に成れる事であれば、力に成ろう』という気になってしまう。


 それは……もはや性根に刻まれた伊都の性格なのだろう。


 普通の子として生きて行こうと決めていたのに、『力』を極力使わないようにと決めていたのに、いったいどうしたものか……ん?



「――おや?」



 懐より取り出した鍵を差した瞬間、伊都の視線が扉の下からちょんとはみ出ている白い紙にて止まった。


 何だと思って引っ張り出したそれは、宛名も何も書かれていない封筒であった。封は成されておらず、中を覗けば四つ折りにされた紙が入っていた。



 ……少なくとも、伊都の知り合いからの手紙ではない。



 もしかして、隣の部屋と間違えたのだろうか。そう伊都は思ったが、直後に、いや違うと内心にて伊都は首を横に振る。


 隣の部屋どころか、両隣の建物と正面の建物までもが空き家だ。配達間違いということはないだろう……気になった伊都は、中の紙を取り出して広げた。



『  明日の17時30分  あけび区の、よもぎしろ公園にて待つ  』



 中に書き記されていたのは、それだけであった。





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