五枚目・裏



 君にしか掴めないものを、君の手で掴め。君が届かないと決めたら、それは届かないものになる。しかし、届くと思えば、いつか必ず掴める。


 先生は私に、そう言ってくれましたね。そしてそれを実際に、身をもって、示してくれました。


 先生は、先生の掴みたいものに手を伸ばしたのですね。そして、パンツを掴んだのですね。たとえそれが誰かを裏切ることになろうと、それでも、自分の信じた道を行くのですね。


 私は先生のその様子を、部屋のカーテンの隙間から見ることになるでしょう。その時自分がどんな気持ちになるのかわかりません。でもおそらく私は、ひとつの決心をするでしょう。いえ、しなければならないのです。


 先生がすべてのパンツを掴んだ時、私は、先生の犯行を公にしようと思っています。


 先生はいつも言ってくれましたよね。君にとっての正解が、誰かにとっての間違いであるかもしれない。それでも君を貫くべきだと。それが、君が君として生まれてきた理由だと。だから私は、その通りにします。


 先生がパンツを取って帰った後、私はベランダに取り付けた防犯カメラの映像と共に警察へ向かいます。先生の罪は、窃盗罪と住居侵入罪です。然るべき処罰を受けてください。


 もう学校では会えなくなるかもしれませんね。それだけが悔やまれます。やっぱり、会えなくなるのはさみしいです。

 でも、先生が先生の道を行くように、私も私の道を行きます。両親にはまだ反対されていますが、この世の真実を暴く、立派な探偵になるべく精進したいと思います。


 あともうひとつ。先生が長い間犯してきた罪があります。それは、女子生徒から先生への、手紙をはじめとした贈り物の類を、一切受け付けないと公式に宣言してしまったことです。


 これは私の推測に過ぎませんが、先生は与えられる物では満足できなくなったのですね。自分に向けられる目がいつも好意的なものでしかなく、そこに喜びを見い出せなくなった。ならば自分の手で掴みに行こうと、その結果のパンツだったのではないでしょうか。


 そのおかげで私は、こんなふうにパンツに気持ちを書き込むことになってしまった。

 紙に書いて手渡すことができないなら、先生自らがその手に掴むものに思いをしたためようと、そう思ったのです。パンツをラブレターにするなんて、後にも先にもこれで最後だと思います。


 先生。


 女の子にはね、どうしても気持ちを伝えなくちゃいけない時があるんだよ。それをはじめから受け付けないだなんて、死刑に値しますよ。罪を償ってくださいね。


 内側を見てください。これで最後です→


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