第33話

 俊一は、放心状態のまましばらく壁と鉄格子に躰を預けていた。

 その時、突然下腹に木綿針で刺されたような腹痛に見舞われた。俊一は堪えようとしたが、とても我慢の出来る痛さではなく、這うようにしてベッドまで辿り着いた。

 急いでベッドの脚に凭れかかって、ズボンのベルトを緩める。少し痛みが治まったのを見計らって立ち上がり、ズボンを下まで降ろすと、ベッドのパイプに掴まりながらゆっくりとポリバケツに触れるか触れないかくらいまで腰を屈める。

 激しい音と共に排泄物が跳び出した。そういえばずっと排便をしてなかった。これまで持ったのは、食事らしきものほとんど口にしなかったからに違いない。だが、躰はもう限界まで来た。

 しかし、人間の体は一体どれくらい溜め込んでいるのだろうと思えるくらいの量だった。排泄がされてしまうと、いままでのことが嘘のように痛みが消滅した。

 俊一は、ほっとした顔になって尻の処理をしたあと、ポリバケツの中身を確認したあときっちりと蓋をした。

 躰が軽くなった瞬間、俊一は空腹と渇きを覚え、まずミネラルウォーターをひと口飲んでからパンの袋を破った。最初はアンパンだったが、今回はメロンパンに変わっている。何でもいいから頬張った。こんな状況では何を口にしても旨いと思わないことはなかった。

 ひと息ついてライトブルーの光りのなかで、何気なくパンの包装紙を手にして見る。セブンイレブンのロゴが印刷されているのに気づいた。

――ということは、この建物の近くにはコンビニがあるに違いない。そんなことを考えていると、徐々に全体像が見えはじめて来た。

・ あのバーがここに人を搬ぶ窓口となっている。

・ 都内からずいぶん離れた場所である。

・ この建物のそれほど遠くない場所にコンビニがある。

・ 地下のある建物である。

・ 医師らしき人物が出入りしている。

・ このところ黒服の男が寝泊りしている。

・ 沼田という男が人を斡旋して小遣い稼ぎをやっている。

・ この部屋以外にも幾つか同じような部屋を有している。


ざっとこんな具合だ――それにしてもこの先自分がどうなるのかという不安もないわけではない。

ベッドに横になってそんなことを考えているうちに睡魔に襲われ、ただただ身を任せるだけだった。しかし、それほど深く眠ることはなく、どちらかというと仮睡に近かった。

このところ薄暗い部屋に監禁されているせいか、聴覚が敏感になっている。わずかな音にでも自然と躰が反応する。おそらく死刑囚が死刑の執行の足音を恐れる時もこれと同じに違いない。

少しでも状況が知りたくて鉄格子に近寄る。そして顔を鉄格子に嵌め込もうとする。

その時だった。沼田が部屋の前を通りかかったのだ。

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