第30話

 ――どれぐらい移動しただろう、俊一は振動で小刻みに躰が揺れるので気がついた。

 ラフレシアナで水割りを飲んだのは覚えているのだが、あとは朦朧となってはっきりとした記憶がない。

 そういえば両腕を抱えられて階段を降り、車に乗せられ、その時にシャッターの上がるような音を耳にしたような気がする。

 声を出そうとしたが、口に布切れを詰められていて、思うように声が出せないのと同時に息苦しさを覚えた。手を動かそうとしたが、後ろ手に結束バンドで絞められているので自由が利かない。同じように足首も絞められているので身動きも取れない。さらには、目隠しまでされていた。

 突然車が停まると、しばらくしてドアの開く音が聞こえ、ふたりの男に車外へ引きずり出された。襟元から冷たい夜気が入り込んだ。緩傾斜の道を少し歩かされ、ドアを開く音と共に建物のなかに連れ込まれた。

 片腕だけ掴まれてゆっくり階段を降りる。かび臭い匂いが鼻腔を突いた。まだ頭は完全に回復していなかったが、それだけはわかった。

 ふたたび扉の開く音が聞こえた。今度はあまり使われていないのか、錆を噛んでいるような音を上げた。次の瞬間強いちからで背中を押され、つんのめると躰が宙に浮き、刹那床に叩きつけられた。だが、目隠しされているため、恐怖感は微塵もなかった。

 躰を起こそうとした時、人が近づいて来て、「もういいだろう」といいながら目隠しを外した。一瞬何がどうなっているのかまったく理解出来なかったが、しばらくしてここが薄暗いコンクリートの部屋で錆びついた鉄格子が嵌っているのがわかった。

 目の前には黒ずくめの男が屈み込み、足首の結束バンドを切り外し、そのあと後ろ手の結束バンドも同じようにした。あの黒服の男に違いなかった。

 俊一は、自ら口中の詰め物を取り出し、

「ここはどこだ、どこなんだ!」

 と、大きな声で叫んだ。吸収材のない部屋は耳障りなくらい反響した。

 男は何も答えることなく、鉄格子の部屋を出て行った。

 俊一はすぐにあとを追おうとしたが、長時間同じ格好をさせられていたため、思うように躰が動かなかった。

 鉄格子に掴まりながら大声で叫ぶものの、聞えるのは自分の声だけだ。諦めた俊一は鉄格子に掴まりながらへたへたと坐り込む。

 そこから見えるものは、二メートル先にあるコンクリートの壁。その天井近くに取り付けられた二十ワットの壁付き蛍光灯。それが五メートルの間隔で点いている。すべてがライトブルーの色だった。天井が高いために床まで光りが届いていない。地下室なことは階段を降りたことと、明り取りの窓が見当たらないことでわかる。

 俊一の入れられた部屋は、いちばん奥に粗末なベッドが一台と青色のポリバケツが一個置いてあり、天上にはやはりライトブルーの照明器具が取り付けられ、作動しているかわからないが天井に埋め込まれたエアコン、そして換気のためのルーバーがあった。

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