第18話  6

 俊一は、午前中を自分が入手した情報整理に費やし、午後からは櫻子をアシストとする。夕方になって会社を出た。向かった先はいうまでもなく三茶だ。昨日は暗くなってからの現場だったから、きょうは明るいうちに周辺の様子を把握しておこうと思った。

 俊一は外堀からじわじわと責める作戦を目論み、たっぷりと歩き回った末にラフレシアナの先にあった居酒屋を目指した。

 居酒屋は『のんき』といった。店に入ると、鍵形になったカウンターだけしかなく、十人入ったら身動き出来ないくらいの小さな店だった。

 店では四人ほど常連客がすでに出来上がった状態で、俊一が店に入ったことなど気づかないくらい盛り上がっていた。

 俊一は入り口に近い席に坐り、ビールとスズキの刺身を注文した。ここからだとL字になっているから、すべての客の顔を観察することが出来る。

 ビールを舐めるようにして客の話に耳を欹てていた時、ふいに店主が俊一に声をかけた。

「この近くに勤めてるの?」

 短くした頭に豆絞りの鉢巻を巻き、顎には無精ひげを蓄えていた。年は五十くらいだろうか。

「はあ、近くを散策してたら、この店が目に入ったもんですから」

「そうなんだ」

 主人は愛想笑いをしながらいった。

「ご主人、どうですか一杯」

 俊一はビール瓶を持ち上げながらいう。近づきになれば話が早いと思った。

「そうですか」

 主人は酒好きなのか、嬉しそうな顔をしてグラスを差し出した。

「これからちょいちょい顔出しますから、よろしくお願いします」

「こちらこそ」

 軽くグラスを合わせると、咽喉が渇いていたのか主人は上手そうに飲み干した。

「ところで、このあたりは店が少ないんですね。ここに入るまでにずいぶん苦労しました」

「そうだろうね。ここらは飲み屋はもちろんほかの店もない寂しい場所だよ。その昔は結構賑わった時代もあったけど、みんな年喰っちゃったから十年ほど前から店を閉めはじめて、いまでは年寄りの歯みたくなっちまった」

 いったあと、店主は後ろの棚に置いてあった煙草に手を伸ばした。

 先の四人の客は話し疲れたのか、声のトーンが落ちてしまっている。

「すいません、そのポテトサラダください」

 刺身しか頼んでない俊一は、まだ腹に余裕があった。

 ポテトを箸で掬いながら、はじめての来店であまりしつこく訊くと怪しまれるかもしれないと思い、きょうはこれぐらいにしてまた明日にすることにした。

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