第15話
「そうなんだ。大変だったんだね」
「うん」
綾香の返事は気の抜けそうなものだった。
俊一に顔を向けることなく、手についた脂をおしぼりで拭っている。
「その綾香のオヤジなんだけど、いまだに音信不通で、生きてるのか死んでいるのかわからなかったんだけど、ひと月ほど前に綾香のオヤジを目撃したという情報を手に入れたんだ。それがさっきいった三茶のバーなんだ」
沼田は三杯目のジョッキを注文する。
「それはよかったじゃないか? ねえ」
「別にィ」
綾香は余程父親を嫌っているのか、まったく話に乗って来ない。
「それを聞いてから何度もその近くで張り込んでみたんだけど、まったくそのバーに出入りする客はひとりもいなかった。それもおかしな話だと思わないか」
「ということは、そのバーに何かがありそうだと推理してるのかい?」
「いや、俺にはよくわからないけど、ほかからもそのバーのことを耳にしたことがある」
沼田は新しいビールに口をつけた。
綾香はくたびれたのか、のんびりと煙草を吹かしている。
「じゃあもっと詳しい話を聞きたいから、出来る限り情報を持ってる人を紹介してくれないか。それと、もしあったら綾香ちゃんのお父さんの写真を見せて欲しい」
俊一は綾香の顔を覗き込むように訊いた。
「あるよ、一枚だけだけどね」
綾香は面倒臭そうにスマホのなかから一枚の写真を俊一に見せた。
写真には嬉しそうな父親と不貞腐れた顔の綾香が並んで写っていた。父親は千田雄一といい、体形は小太り中背で、頭髪はM形に禿げ上がっていて、大きな特徴として右頬に大きなホクロがあった。
「もしよかったら、この写真を僕のスマホに送ってくれないだろうか?」
綾香は、「いいよ」といってスマホをいじり出した。
その後も、ミステリーなバー「ラフレシアナ」と綾香の父親のことについて一時間ほど話をして、店を出た。
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