第2話 2
だが、営業中の部屋であるだけに、空室でない限り入ることが出来ない。そうこうしているうちにどういうわけかそのラブホテルが突然営業を辞めてしまった。結局その部屋のなかを誰も知る者がなく、ただ憶測だけが独り歩きしただけとなった。
ところがそれから数年して、廃墟のようになった建物に無断で侵入した者が自慢げにSNSに記事を投稿したことが火種となって、ひっきりなしに見学者が訪れるようになり、ついには警察が乗り出すまでになってしまった。
警察沙汰になったことで一時は沈静化したのだが、そうなると警察の警備も緩くなる。やがて興味津々の若者たちは、警察の目を盗んで侵入するようになった。
そして、侵入者たちがそのラブホテルの一室で見たものは、部屋の壁紙にべっとりとついた血糊だった。
「壁に血がついてたっていったわよね? それって誰かが面白半分でペンキでも塗ったんじゃないの?」
櫻子は、まったく信じられないといった顔で俊一を見る。
「ひょっとしたら櫻子さんがいってるのが当たってるかもしれません。でもそれを僕が見たわけじゃないので何ともいいようがありません。ただ、警察が動いてないのは事実です」
確かに俊一がいってることは間違いではない。
「ということは、壁にあるのは血糊じゃないってことじゃないの? 血だとしたら誰かが通報するでしょ?」
櫻子は、企画書にあるラブホテルの住所をボールペンの先で何度も突っつきながらいう。
「そこなんですけど、そんな話になったのは、やはりその部屋がいつも塞がってたということと、営業を辞めた時期があまりにも近かったということじゃないでしょうか」
「もっとほかにはそのホテルに関する情報はないの?」
「すいません。僕もまだその現場に行ってないので詳しいことは……」
俊一は頭を掻きながらいった。
「そのホテルに侵入した人はたくさんいるの?」
「いると思います。だってSNSにあれだけ投稿があるんですから」
「ということは、逆にいうと他誌も同じように記事にしようとしてるんじゃないの? そうだとしたら早いこと載せないと二番煎じってことになりかねないわよね」
櫻子は瞑目して何かを考える仕草を見せる。
「はい」俊一は短く返事した。
「善は急げというから、早速取材にかかろう。あんたすぐに段取りしなさい」
「わかりました。で、これからすぐに出ますか?」
「バッカじゃないの? いますぐ行ったって外はまだ明るいじゃない。いまから行ってもホテルの建物を見るぐらいになっちゃうでしょ。外観を見るくらいいつでも出来るわ。まずその部屋の目撃者を探すことそれが最優先じゃないの?」
櫻子は書類を片づけながら俊一を睨みつけた。
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