反対の人

 目が合ってしまった。その一瞬で私は悟る。別に人の心が読めるなんて羨ましい超能力が使えるわけではない。だけど分かる。

 山中は私と同じことを感じたはずだ。心臓の鼓動が早くなる。顔が熱くなってきた。意識しちゃダメだ! 落ちつけ私! 早くなった鼓動を押さえつけるように自分に言い聞かせる。

「そう言えばさ、もうすぐ文化祭じゃん?」

 私はなんとか話題を見つけた。山中を見たいようで見たくない。変な葛藤の末、私は山中の方は見ずに問いかけた。

「そ、そうだね。」

 裏返った声で返事をしてくれた山中。

「ふふ。なんで声裏返ったの?」

 笑いながら聞いてみた。しかし無意識に山中の方を向いてしまった私。あ……また目が合ってしまった……

「あ……えっと……」

 山中も動揺している……と思う。正直、何を考えているか分からない。けど見た感じでは動揺している。

「まぁ、いいけどさ」

 一旦、声が裏返ったことは忘れてあげよう。それよりも文化祭だ。いや、正直文化祭なんて今はどうでもいいんだけど、とりあえず目が合ったことに動揺してしまった自分を落ち着かせなければ……

「高校生にもなって文化祭で合唱コンクールってダルいよねー」

「え!? あぁ……まぁ、そうだね」

「山中のクラスは何歌うの?」

「翼をくださいだけど」

「え!? 小学生じゃん!」

 まさかの選曲。決めた人間のセンスを疑う。別に翼をくださいを馬鹿にしているわけではない。歌詞をじっくり読んでみると、そこそこ良いことを言っている。ただ、それを高校生が大人数で合唱する光景は……まぁ……うん……

「そっちのクラスは何?」

「えーとね……秘密」

「えぇ!? なんで?」

「周りに教えるなって言われてるから」

 嘘である。ただリアクションが面白そうだったから秘密と言ってみた。案の定、山中は大きいリアクションを見せてくれた。

「へぇ、そうなんだ。ガチだね」

「うん。優勝狙ってるからね」

 どうやら私の嘘を本気で信じたらしい。こうなったらネタバラシはしないでおこう。優勝なんてウチのクラスは全く興味がない。無論私もだ。なんなら曲決めを行ったHRの際、クラスのみんなで合唱コンクールを辞退しようという案が出たくらいだし、それを担任に注意されるとその後の休み時間にボイコットしようという話し合いがクラス全員で行われたくらいだ。まだまだ私たちは反抗期の真最中ってとこだろう。

 それに比べ山中は大人だ。教師の悪口は言わず、学校行事にも反応を見る限りでは、それも勉強の内だと言わんばかりにそこそこの参加意欲を持っている。きっと山中は修学旅行でもホテルの部屋から抜け出すなんてことはしないタイプだ。私とは真逆。楽しければそれでいいと考えている私とは真逆。そんな真逆の男子に……いや、真逆だからこそなのかもしれない。私は山中に魅力を感じている。

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