希望
私もいつかは段差がキツく感じる時がくるのだろうか? 停留所からおばあちゃんが乗車してきた。杖を突いている上に重そうな荷物を背負っている。
山中は……意気消沈とはまさにこのことだな。全身で撃沈という言葉を体現していた。無論、おばあちゃんには気付いていない。なんとか1段目を上り、2段目に足をかけてからなかなか上がれないおばあちゃん。視線を送るだけで助かるわけもなく、私は立ち上がった。さすがに山中も気付くだろう……全然気付いていない……そんなにショックだったか。
「ねぇ! 手伝おうよ!」
ようやく顔を上げた山中。ホント世話が焼ける。いや、そんな関係ではない。そもそも私は初対面の人間相手になぜこんなにも感情を揺さぶられているのだろう? 今から人助けをしようというのに私が助けてもらいたくなってきた。
「あ、あぁ」
山中も立ち上がる。今の私たちは周りから見たらどんな関係に見えているのだろう? クラスメイト? いや違うクラスだ。恋人か? 初めましてである。……というか私は何を考えているんだ!
なるべく山中を視界に入れないように私はおばあちゃんに歩み寄った。
**
「ありがとね」
おばあちゃんを席に座らせることができ、お礼の言葉を掛けられる。やっぱり人助けは悪い気はしない。優先席に座ったおばあちゃんは背負っていた荷物を下して肩の力を抜いたように見えた。
俺も席に座ろう。そう思い先程まで座っていた二人掛けの座席に戻る。あ……彼女はどうするんだ? また俺の隣に座ってくれるのだろうか? 何とも言い難い恐怖に足が止まる。
「早く行ってよ」
立ち止まっていた俺に、後ろから彼女が声を掛ける。
「あ、ごめん」
どうやら俺の隣に座るようだ。嫌われてなかった……
良かったあぁぁぁ! 心の中で万歳三唱をしながら席に戻る。
「きゃっ!」
まだ俺たちが席に座ってないにも関わらずバスが発車した。その反動、慣性の法則が働き彼女がバランスを崩して俺の背中にもたれかかった。
「うおっ!」
まったく予想だにしていなかった衝撃に俺もバランスを崩す。なんとか手すりを掴んで二人分の体重を腕一本で支える。
「あ! ごめん!」
しかし、すぐさま一人分の体重は消え俺は体制を元に戻す。
「大丈夫」
一応、今の俺の状態を伝える。彼女はそれを聞いて少し安心した表情になる。まぁ、寄りかかられたとは言え、事故のようなものだし相手が女子だったので本心を言えばラッキーだと思う。
「ホントごめんね」
「あー、うん。大丈夫だよ」
窓側に俺、通路側に彼女と席を立つ前と同じフォーメーションで座り、彼女は再度謝罪の言葉を重ねた。冷静に客観的な立場から見ると今の俺たちはおかしい。ウケたり怒ったり謝ったりと何をしているんだ俺たちは……
彼女の方を見ると目が合った。が、すぐに逸らされる。その一瞬で俺はドキドキしてしまった。気持ち悪い表現かもしれないが心底ドキドキした。女子ってこんなにも可愛い生き物なのか! 自分でもドン引きするほどの感想を俺は心の中で叫んだ。
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