急降下
こ、怖えぇぇぇぇ……生まれて初めて女子を怒らせてしまった……原因は明らかである。あからさまに不機嫌な態度を取ってしまったからだ。
「なんか言ったらどうなの?」
ビビッて顔を背けていた俺に彼女の追撃が迫る。
「ご、ごめん」
ビビり過ぎて声が裏返りながらもなんとか謝罪の言葉を口にできた。
「なにが?」
何がとはなんだ!? 謝ったじゃないか! これ以上、何を言えば良いんだ!?
「何に謝ってんのかわかんないんだけど」
どうやら本格的に怒らせたようだ。そう今確信した。正直、謝ればさっきのように笑って許してくれるもんだと思っていた。だが違う。誠心誠意を込めて謝らなければ……
「……本当にごめん」
「うん。だから何が?」
何が? ……そうだ! その通りである。俺は何に謝っているんだ? 別に謝ることなんてないじゃないか。勝手に彼女が機嫌を損ねただけだろう。俺に原因があるなんて微塵も思ってない! むしろ急にムカついたなどと言ってきた彼女こそ謝るべきだ!
「何が? ……って言うかさ。なんでムカついたの?」
「は?」
「は? じゃなくて。何にムカついたのか教えてくれないとコッチも何に謝ったらいいのかわかんないんだけど」
どうだ! 恐れ入ったか! 相手が女子だろうと関係ない。スマホを没収されて教師の悪口を初対面の人間に堂々と話すような奴に口論で負けてたまるか!
「ウザ。マジ無理なんだけど」
俺の体力ゲージが表示されているのなら、おそらく0になっているだろう。女子からの無理という言葉は、年齢=彼女いない歴の俺にオーバーキルのダメージを与えた。
「ごめんなさい……」
結局また謝ってしまった。何に対してでもなく無意識に口が動いていた。これが負けを認めるという行為であることも知った。
「……」
彼女はこれ以上、俺の心にダメージを与えるつもりはないようだ。悪くなっていた目つきは元に戻っている。しかし、不機嫌な表情とオーラはとてもじゃないが俺には手に負えない。
「まぁ別に良いんだけど……」
絶対に嘘だ。良いって顔じゃない。嫌われたな……落ち込んで下を見ていると彼女の足が動いた。あぁ……とうとう違う席に移動するのか……ん? なんで俺は嘆いているんだ?
訳もわからん理由でムカつかれて、オーバーキルされたのだ。ここは喜ぶべきじゃないのか? 笑顔を見れなかったのは残念だが……
「ねぇ! 手伝おうよ!」
「え?」
彼女の声に反応しそちらを向くと、バスは停留所に着いていた。そこからおばあちゃんが杖を突きながら乗車していたのだ。足が不自由なのだろう。段差を上がるペースが遅すぎる。おまけにこれまた重そうな荷物を背負っている。
「あ、あぁ」
助けに同意をし、俺と彼女は席を立ち2段目の段差で手間取っているおばあちゃんに歩み寄る。
……そもそも俺はなぜ彼女の笑顔が見たいと思ったのだろう? そりゃあ、ウケるって言葉と裏腹に全く表情が笑っていないことを不思議に思ったってのも理由だけど……
本質的な部分で自分でも気付いていない彼女への気持ち。自分が降車する停留所にバスが着くまで。俺はこの気持ちの正体に気付くことができるのだろうか?
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