勘違い
理由はあった。彼女の笑顔が見たい。
それだけの理由で、空気を一変させる言葉を発してしまった俺。一歩を踏み出す勇気を間違った方向に使ってしまったと後悔する。
しかし、希望というか、なんというか…おや? この人、もしかして……といった、ご都合主義万歳の感覚が確かにあったのだ。俺の気が滅入ったのを察してか、下手ではあったものの励ましの言葉もとい明るい言葉をかけてくれた。
そりゃあ、友達ならそのくらいのことはするだろうと思うかもしれないが、俺と彼女の関係は同じ高校で同じ学年。初めての会話をしてから約20分。それだけの関係である。
果たしてこの関係を友達だという人間がどれだけいることだろうか。少なくとも、俺は友達だとは思っていない。…だが彼女はどうだ? ……どうなんだ!?
俺の大事な何かが形成されるような、はたまた壊れるような。そんな人生の重要なクジ引きの権利を彼女に奪われているような気分に俺はなっている。
「えっとー……どういう意味かな?」
「そのままの意味です」
こんな強気な自分は17年間で初めましてだ。困惑している彼女を追い込むかのような勢いで俺は問い続ける。
「いや……どこで笑ってるって言われても……」
「顔じゃないですよね? だって全然笑ってないですもん」
こうなったら、というか元々あってないような関係なんだ。いわゆる奇縁というやつか。ともかく攻めるしかない! 彼女の本心を知りたい!
俺は今、その願望ないし欲望に溺れている。
「あ! もしかしてさ。ウケるって私が言ってるから気になったの?」
「え? あぁ……まぁ、そうですね……」
しまった!! もしや、まったく意味のない言葉。いうなれば、口癖のようなものだったのか?
まるで憑き物が落ちたように、俺の勢いは沈んだ。
「特に意味ないんだよねー。口癖みたいなもんだからさ」
「……そうなんですね」
やってしまった……大いにやってしまった。彼女の笑顔を見たい。その欲望はあっけない終わりをむかえた。
「変なこと聞いてすいませんでした……」
「いいよいいよ! 気にしないで! ちょっとビックリしたけど」
謝罪した俺に彼女は笑いながら応えてくれた。結果的には彼女の笑顔を見れはしたが何かが違う。
そういう笑顔じゃないんだ……
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