一歩、前へ

 喋り疲れた……少し休憩しよう。ノンストップで喋り続けていた私は、視線を彼から前に戻して気づかれないように深呼吸をする。呼吸音を殺しながらの深呼吸は、思ったよりも落ち着きを与えてくれて肩の力が抜けた。緊張していたわけでは全くないのだが、喋っていると無意識に熱が入り自然と肩が上がる。

「なにそれ。ウケるんだけど」

 そうは言ったものの全然笑いのポイントがなかったために笑顔を作ることができなかった。私の口癖である「ウケる」は、とても便利な言葉だ。話を区切りたいときにコレを使えば一瞬で間ができる。

 今もそうだ。あまり盛り上がってはいなかったが彼との会話もここで一旦終わった。彼も少し休憩をしてい……ん?

「……」

 彼の方を横目で見ると無言で……まぁ、バスの車内で無言なのは別におかしいことではないのだが……むずかしそうな表情で俯いていた。

「大丈夫?」

 咄嗟に口が開いた。それに反応した彼がこちらを向く。あっ……初めて目が合った。なぜかはわからないが無意識に彼のことを心配した自分に加えて、初めて目が合ったこのタイミングが少しだけ私をときめかせた。……ホントに少しだけ。

「嫌な気にさせちゃったかな?」

「え? あー……」

 え!? 本当に嫌な気にさせてしまった…

 なるべく重い空気にならないように私は、本当に心底反省してますって顔をしながら言葉を続ける。

「え!? マジでムカついちゃった?」

 違うだろぉー!! ……反省してますって顔の意味がなくなるレベルの言葉のチョイスをしてしまった。

「いやいやいや!大丈夫だよ。ちょっとね、今までの自分のことをね……」

 同じ学年なわけだから彼は私と同じ17歳だろう。17年間で壮絶な出来事でも体験したのだろうか。

 彼の表情は暗く、後悔とも反省ともとれるものであった。今までの自分を振り返ってこんな深刻な顔になっている彼に私はなんと言葉を返してあげればいいのだろう。

「今までって。まだ17でしょ?ウケるわ~」

 結局、会話にピリオドを入れた私。自分でも驚いている。

 初めて会ってから、だいたい20分ほどの時間しか過ごしていないのに彼の暗い表情をなんとかしてあげたいと思っている私がいる。

しかし、それは私の力不足ないし経験不足とでもいうのか、彼を明るくさせられることのできるピッタリの言葉が見つからない。

「あの……」

「ん!? なに?」

 彼が会話の話題を振るのは20分間の中で初めてのことだった。反応が少し大きくなってしまった私。彼は少し戸惑いながらも言葉を続けた。

「あなたは……その……」

「なに? はっきり言って大丈夫だよ」

 言いづらいことなのだろうか? 随分ともったいぶって言葉を発しない彼に怒らない口約束をして会話を続けるよう催促する。

「えー……じゃあ……」

「うん。なに?」

彼は気まずそうな顔をこちらに向けて、こう言った。

「あなたは……どこで笑っているんですか?」

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