笑顔はどこ?

 体感的には2時間ほど、彼女の話を聞いている気がする。左手首にはめている安物の腕時計で時間を確認すると、まだ17分しか経っていない。彼女の話が退屈なわけではない。むしろ、女子と17分も会話が成立するなんて夢のような出来事である。

「学食ってなんであんな安いんだろうね? きっと素材が悪いのかな?」

「あー、多分そうかもね」

「だよねー。じゃなきゃ学校潰れるでしょ」

 彼女と話していて気付いたこと。彼女は疑問形を使うことが人よりも多い。

「いや、潰れはしないと思うけど」

「いやいや、絶対に終わるよ。え? もしかして学校好きなの?」

ほら、また疑問形がでた。これはアレか? 俺との会話を終わらせたくないがための彼女の作戦か?

「え? 別に好きでも嫌いでもないけど…」

「あ、そうなの? なんか学校の肩を持つような反応しかしないからさ。てっきりそうなのかなーって」

「そうかな?」

「そうだよ!なんで学校のこと悪く言わないの?」

 どうしてだろう? 考えたこともなかった…確かに学校には不満もたくさんある。授業は息が詰まる上、それを癒してくれる友人がいるわけでもない。クラスにとって自分は必要不可欠な存在だともまったく思わない。もしかしたら、俺が学校を辞めてもクラスメイトたちにとっては特に心が動くようなことではないのかもしれない。

「うーん……なんでだろう?」

「なにそれ。ウケるんだけど」

 そう言うと彼女は、17分……2分の時間が流れていたため、19分間窓側に向けていた顔を正面に戻した。

 彼女の言葉ではないが、俺の高校生活は確かに「なにそれ」って感じだ。周りと同じように勉強が嫌いで、周りと同じように異性と仲良くしたいと思っているし、周りと同じように学校がダルいと感じている。

なのに、なぜ自分は人生を楽しめないのか。通路側の席に座っている彼女のように、嫌いなものを嫌いと言えない自分。理由もないのに嫌いなものを庇っている自分。こんなんだから人との距離が縮まらないのだろうか。

少し自己嫌悪になりながら左を向くと、インターバルを終えたのか、彼女はこちらに顔を向けていてくれた。

「大丈夫? 嫌な気にさせちゃったかな?」

「え? あー……」

「え!? マジでムカついちゃった?」

「いやいやいや! 大丈夫だよ。ちょっとね、今までの自分のことをね……」

 心の準備が間に合わないまま、彼女と目が合ってしまった。動揺したのを悟られないように沈黙で誤魔化す。気が滅入ったのは当たってはいるが、それは彼女のせいではない。自分の行動力や一歩を踏み出す勇気がなかったために自己嫌悪になっただけだ。

「今までって。まだ17でしょ? ウケるわ~」

 彼女はインターバル前の会話でも、ちょくちょく「ウケる」という言葉を使っていたが全然笑っていない。そして当然の如く俺も笑っていない。彼女は一体、表情以外のどこで笑っているのだろうか?

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