仮面
-他人とコミュニケーションをとるのが好きだ-
高校の入学式が終わり、最初のHRで配られたアンケートにあった項目欄。私はマークシート用紙の「はい」を塗り潰した。
嘘じゃない。とにかく喋ることが大好きで、授業中でも公共の場でも構わずに喋りだす。そんな自分が嫌いと思ったことは一度たりともないし、こんなコミュ力のある私を周りはさぞ羨ましい眼差しで見ていることだろうと思っているくらいだ。
「やばっ」
「おい!今なに隠した?」
「は?別になにも隠してないけど」
「いいから。スマートフォン出しなさい」
わかってるなら初めから聞くなよ。しかも、こういう時の女子の裏切りは冷酷無比。さっきまで談笑していた友達はみな我関せずの知らんぷり。私に見せていた笑顔の表情は仮面だったのか、口を一文字に整えて視線はあさっての方向。
結局、土屋にスマホを没収された私は放課後に軽い説教とA4サイズの紙にうわべだけの反省文を記すこととなった。
「おつかれ~」
「意外と短かったねー」
「いやいや、長すぎでしょ。スマホぐらいで説教とかマジありえないわー」
笑顔の仮面をつけた友人の言葉を一蹴して愚痴をこぼす。職員室の前だし教師に聞かれる可能性もあったが今の私には関係ない。イライラもイライラ。怒りの感情パラメータがMAXの私はむしろ教師たちに聞こえるくらいの声量で愚痴を続けた。
それから2日後、バスの停留所にいる。最大でも4人座るのが限度であろうボロボロの木製ベンチに3人座っている。その中に私の高校の制服を着た男子がいた。廊下で何度か見た覚えがあるが直接話したことは多分ない。この多分とは、おしゃべりが好きな私のことだ。もしかしたら校内行事かなにかで、たまたま隣に居合わせた時に話している可能性もある。話すだけ話したら満足するタイプであるため、誰に何を話したかなんていちいち覚えてない。
「すいません……」
「あっ……すいません」
コミュ症だな、この人。話始めに「あっ」と言う人は大抵コミュ症だ。スクールバックを座席に置こうとした男子をけん制し、そこに座る。
「何年生ですか?」
多分、同学年だとは思うが一応敬語で喋りかける。別に学年に興味があるわけじゃない。ただ、いくら喋るのが好きと言えども、初めましてであろう人間相手にタメ口で話すのは気か引けるし、お互いに制服を見れば同じ高校だと理解できるだろうからとっつきやすい話題を提供しただけだ。
「2年ですけど……」
「あっ!やっぱり。廊下で見たことあるなと思ったんだよね。」
「え……あ……そう、ですか。」
やはり2年生だったか。タメなのに敬語で会話を続ける彼は私にとっては不思議でしかない。馴れ馴れしいと思われるからという理由で敬語をなかなかやめない人もいるが、そんなんだから人との距離が縮まらないのだ。仲良くなりたいアピールとでもいうのか、ともかくそれを自分から出さないことには相手もこちらに歩み寄ってきてくれない。私の持論ではあるものの、今まで生きてきて敬語をいきなりやめたからという理由で距離を置かれたことは一度もないし、犬猿の仲になった人もいない。
「てか、数学の土屋マジでウザくない?」
「土屋先生ですか?」
「こないだ、休み時間にTwitterしてたら土屋に見つかって没収。別にスマホで犯罪してるわけじゃないんだし」
土屋のことを先生付けして呼んだ彼。なんかムカつく。別に周りに教師はいないんだから呼び捨てすればいいのに。…まぁいいや。
「英語の授業始まる前にさ、毎回単語テストあるよね? あれ、覚えれる気がしないんだけど。てか、10問くらいやってもやらなくても同じじゃない?」
笑顔の仮面をつけていない彼に愚痴を聞いてもらおう。大好きなおしゃべりの相手ができた私は、まるで新しい玩具を買ってもらった時の幼児のような瞳で窓側に座っている彼を見つめた。
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